戦場
「ここは、いったい、何のための場所なんだ? まるで、どこかの農業惑星みたいに見える……」
走りながらパックは、ヘロヘロに尋ねていた。ヘロヘロは顔を振った。
「判んないよ。でも、まるでミリィの生まれ故郷そっくりだ! あの家も、ミリィの育った家みたいだし……」
二人は赤い切妻屋根の見える丘へ向かっている。丘の周りには一面の麦畑が広がり、二人は、その麦畑を突っ切っていた。
「なんだって……」
パックが何か言いかけたその時、いきなり周りの地面がぐらりと揺れた。
どかあーん!
炸裂音とともに土塊が跳ね上がり、地面から猛然と土埃が巻き上がった。
地面に横倒しになり、パックは空を見上げ「あっ!」と叫び声を上げていた。
いつの間にか空はヴァーミリオン・オレンジの色に燃え上がり、毒々しいほどの夕空をバックに雲霞のごとくといった表現がぴったりくるほどの大量の戦闘機、爆撃機が空を埋め尽くしている。
再び砲弾が飛来する音がして、今度はあの赤い屋根が吹き飛んだ。屋根の真ん中から黒い煙が立ち昇り、風見鶏の飾りが吹き飛んで宙に舞った。
パックがやってきた森の方向から、地響きが近づいてくる。
振り返ると、巨大な戦車がずしんずしんと地面を踏みしめ、接近してくる。戦車の後方からは、戦闘服に身を包んだ地上部隊が隊伍を組んで従っていた。
「戦争だ! ここは戦場だぞ!」
パックは今こうして眼前に見ている光景が、信じられなかった。まるで悪夢の一場面だった。
「ヘロヘロ、こりゃ、いったい何だ?」
言いかけて、ヘロヘロを見ると、呆然と立ちすくみ、硬直している。
「おい、ヘロヘロ?」
声を掛けられてもヘロヘロは動かない。いや、動けないらしい。両目をまん丸に見開き、かたかたと細かく震えている。
「ヘロヘロ! とにかく、あの家へ急ぐぞ!」
棒立ちになっているヘロヘロを抱え上げ、パックは走り出した。何が何だか判らないが、ここに立ち止まっていては危険だ、という本能的な判断だった。
びいーんっ、と斥力プレートの音が近づき、パックの目の前に一台の戦闘用飛行モービルが立ち塞がった。
モービルは無蓋タイプで、銃座があり、いかにも破壊力がありそうな大口径の銃が装備されていた。
運転席に座る相手を見てパックは叫んだ。
「あんたは……?」
「お前をあの家へ近づけさせる訳にはいかんな。前はミリィに止められたが、今は違う。今度こそ、死んで貰おう」
にやりと笑って答えたのはシルバーだった。素早く立ち上がり、銃座に取りつくと、銃口を旋回させ、パックの胸に狙いをつける。