フェイズ2
だん、とその場面を見守っていたシルバーはモニターの画面を拳で叩いていた。
「ヘロヘロだと? 何で、あんな旧式のロボットが気になるのだ? 総て完璧に準備したはずだぞ!」
モニター・ルームで映し出されたミリィは、ぽつんと立ちすくみ、今にも倒れそうだ。顔色は真っ青で、両目は大きく見開かれ、普段の倍ほども瞳孔が開かれている。
赤外線レーザーがミリィの肌を走査し、肌からの発汗量、血流量の変化を刻々と記録していた。
「この娘の心理状態は極めて不安定で、混乱しております。脳波分析によると、懐疑心は強烈ですが、過去の記憶のフラッシュ・バックによる自己暗示の状態です。総ての反応は、計算の範囲内!」
モニターの数値を読み取った部下が冷静に報告する。
シルバーは迷っていた。次の手を打つべきか? パックとヘロヘロが、せっかくの準備をぶち壊しにする可能性は高まっている。
しかし計画は、すでに走り出していた。途中でやめる訳にもいかない……!
ゴロス人が呟いた。
「あの小僧どもは、如何致します? すでにミリィの家へ近づいております」
さっとシルバーはモニターを操作している部下に命じた。
「小僧どもの映像を出せ!」
画面が切り替わり、田園地帯を駈けているパックとヘロヘロの姿を映し出す。二人は、ミリィの家へ向かっている。
「どうします? あの場所には、部下は一人も配置しておりません。今から向かわせるには、少し時間が足りません」
シルバーは「うぬぬぬ!」と呻くと咆哮した。
今こそ決断の時!
「フェイズ2に移行! 場面転換だ!」
部下はさっとシルバーの命令に従い、キー・ボードの上に両手の指先を構える。
「フェイズ2に移行します! 失神ガス放出……」
乗組員の指先が目の前のキー・ボードで踊った。
画面のミリィは、ぐらり、と傾くと、ぱたり、と倒れこんだ。無色透明無味無臭の失神ガスが、ミリィの意識を失わせる。
と、どこに隠れていたのか、小柄な身長一メートルにも足らない〝種族〟がぞろぞろと現れ、意識を喪失したミリィの身体を担ぎ上げ運んでいった。
この種族の生まれ故郷は地上には人間の呼吸できない有毒ガスで満たされていたため、地下生活を余儀なくされ、その結果、身体を小さくさせたのである。そこでは、小柄な者のほうがより有利な生活ができることで、どんどん小さくなるよう、遺伝子を改造していた。
彼らはガスを吸い込まないために、各々呼吸マスクで顔を覆っていた。小柄ではあるが、力は強い。ミリィの身体は軽々と担ぎ上げられていた。
「フェイズ2、準備完了!」
操作している部下が宣言した。シルバーは頷いた。
「よし、侵攻部隊を登場させろ!」
命令を下すと、シルバーはその場から立ち去った。