表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/127

逃走

 男を認め、ミリィは憎々しく呻いた。


「シルバー! あんたって、どこまでも超しつっこいんだから!」


 スクリーンの、シルバーと呼びかけられた男は「ほっ」と唇をすぼめた。

 がっしりとした岩を刻み付けたような顔つき。頭には、いや、首から上には、唯の一本も毛が生えていない。


 全体に人間といっていい顔つきだが、皮膚は銀色に輝いている。まるで金属の彫像のよう、見方によっては、魚市場で大量に売られているシルバーフィッシュの肌のようだ。


 シルバーの銀色の皮膚に、くしゃくしゃっと皺が寄り、にまーっと笑顔になった。


「ミリィさん……それはないでしょう? わたくしは、あなたに危害を加えようとは、これっぽっちも考えてはおりませんよ」

 言葉付きは厭らしいほど丁寧で、シルバーの声は轟くような低音である。口調は柔らかく、このような緊迫した場面には似合わない。

 が、シルバーは冷徹な瞳で、じっとミリィの顔を見返した。

「いい加減に降伏しなさい。今までは警告だったが、今度はそちらの無反動スラスターを狙う。一発こちらからレーザーを発射すれば、そちらはお手上げだ。どうです、そんなことに、なりたくないでしょう?」

 ミリィは「ふん」と顎を上げた。

「それじゃあ、やってご覧! そっちの射撃手の腕を試してみるのも面白いわ!」

 シルバーはゆるゆると頭を振った。

「お判りにならないようだ。こちらの射撃手は優秀だ。あなたの【呑竜】のスラスターを一発でお釈迦にできる。が、その衝撃で船内にいるあなたを傷つけてしまうかもしれないから踏み切れないだけのことなのだ。大人しく停船してくれませんかな?」


 ミリィはそれには答えず、いきなり操縦桿を握り、加速した。両者の相対速度が亜光速になる。赤方偏移によって通信装置の周波数がずれ、画面が乱れる。


 スクリーンの向こう側のシルバーが慌てて部下に命令する場面が、最後にちらりと映し出された。


 ぐいっとミリィは船を上手回しに旋回させ、スラスターの出力限界ぎりぎりに速度を上げる。

 たちまち速度は光速度近くに上がり、呑竜の通過した後は空間が一時的に凝集して、長い航跡が残った。重力レンズ効果で遠方の星の光が集まり、揺らめいた。


 ばちばちっ、と二人の前の計器が一斉に赤く染まり、悲鳴のように警告の音が響く。

「ちっ」とミリィは唇を噛んだ。シルバーの船からレーザーが発射されたのだ。両者の距離はミリィの目測で三光秒、向こうの射撃手は呑竜の旋回を読んで狙ってきた。


「今のは、危なかったよ! 船の外板の温度が九百度に上昇! 直撃ではなかったけど、掠ったみたいだ……」

 ミリィは無言で頷いた。この急場を逃れるため、思考が急速に、ジェット・コースターのように旋回する。

 ちらちらとミリィは超光速ジェネレーターのスイッチを睨んだ。ともかく、どこかへ逃げねばならない!


 そうだ! ミリィはある思いつきに夢中になった。


「ヘロヘロ! 超空間へ突入準備! 座標を計算してっ!」

「ほい来た! どこへ向かう?」

「洛陽よ! 首都へ向かうわ……」

「なんだってえ!」

 ヘロヘロは仰天した声を上げた。


 洛陽!


 銀河帝国の首都。銀河系の数那由他人と思われる、すべての人類の要。

 そこには歴代の皇帝が起居し、帝国を維持するための法律が日々倦まず弛まず、次から次へと生産され、すべての殖民星から情報が収集されていた。


「そうよ、洛陽へ向かうのよ!」

 ミリィは会心の笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ