ワイン
「なによお! あたしが酔っているだなんて、誰ーれが言ってんのよ……。あ、あたしは酔っていましぇんから、ほ、本当に……」
ぐだぐだとミリィは酔眼を据えて、介抱するゴロス人の腕を振り払った。
すでにミリィは、ワインの瓶を十本近くも空にしていた。食卓にはごろりと横になった瓶や、食べ散らかした食べ物が散乱し、惨状を顕わにしている。
ゴロス人は無表情にミリィの腕を、がっちり掴んだ四本の腕を使って離さない。
「判っております。ただ、すこーし、お眠むで御座いますようで……。さ、こちらへ案内いたしますから、お休みになられたら如何で御座いましょう?」
ミューズ人たちの楽隊は、ミリィの眠気を誘うようなゆったりとしたリズムの曲を演奏している。その曲に、ミリィはゆらゆらと上体を揺らしている。
遂に、ごとり、とミリィの額がテーブルに転がり、がっくり全身から力が抜ける。
ごおーっ、ごおーっと盛大に鼾が響いた。
「眠ったか?」
シルバーが近寄って囁いた。ゴロス人は頷いた。
「よし、例の場所へ運んでおけ。あとは、静かに寝かせておくんだ。誰も邪魔するんじゃないぞ!」
ゴロス人は頭を振った。
「しかしまあ、よくも呑んだものですな。上等のワインを、まるで水でも飲むように」
シルバーは笑った。
「この娘、酒には目がないんだ。おれは良く知っている」
ゴロス人は肩を竦める。
「それで次々とワインを勧めていたんですな? 酔いつぶれるように」
「まあな。これからの作業を邪魔されたくない。この娘、見かけによらず頭は回るから、こうしていてくれれば安心だ」
よいしょっ、とゴロス人はミリィの身体を担ぎ上げた。ミリィはまるで骨がないようにぐたりとゴロス人の肩に担がれる。ミリィが運ばれていくと、シルバーは顔つきを精悍なものに変え、足早に去っていく。
ミューズ人はそんな遣り取りをまるで知らないように単調な曲を演奏し続けていた。その曲に合わせ、原型のカップルたちは優雅な踊りを続けている。