牢屋
シルバーの命令どおり、パックとヘロヘロは、牢獄に限りなく近いガラクタ倉庫に「ぶちこまれ」た。
二人を連行した河馬のような姿の手下は扉を開けると、ひょいと手を伸ばし、二人を宙吊りにして思い切り放り投げたのである。恐ろしいほどの馬鹿力であった。
がちゃん、と音を立て鋼鉄製の扉が閉められ、ロックが掛けられた。
「いてててて……」
ヘロヘロは情けない泣き声を上げた。
パックも放り投げられた時に激しく腰を打ち、一瞬、悶絶した。それでも、悲鳴を上げるのは我慢した。あいつらに一瞬でも満足感を与えたくないという意地である。
倉庫は寒々として、壁際に壊れたベッドやら椅子やら、原型不明のガラクタ類が無造作に積んで置かれ、反対側には簡易便器が剥き出し状態で置かれている。窓などは見当たらない。もっとも戦艦の内部だから当然だが。
天井は高く、床はもちろん、壁も総て剥き出しのスチールだ。触るとひやりと冷たい。
そろり、とパックは扉に近づいた。
ロックを調べると、パックの手に負える機構ではない。もしかすると解除できるかという淡い希望は、あっさり砕けた。
パックのズボンのポケットには、宇宙パイロット必携の修理工具が入れられている。手下はパックが原型であるという先入主から、身体検査の必要性など頭には端からなかったに違いない。これを使ってロックを解除しようと考えたのだが、さすがに戦艦の牢獄兼用の倉庫である。それは無理そうだった。
ヘロヘロは倉庫の床を、うろうろと歩き回っていた。
「大丈夫かなあ……ミリィ。シルバーと二人きりにされて……」
「シルバーが何かする、と思うのか?」
パックの問い掛けにヘロヘロはぶるん、と頭を振った。
「違うよ、ミリィが妙な気を起こさないか、心配なんだ。ミリィって、ほら……ちょっと気が短いところがあるだろう?」
パックは短く笑って同意した。
「まあな。停滞フィールドから目が覚めたら、次には早速おれに銃を突きつけるくらいだからな。ちょっと、どころじゃないけど」
諦めてパックは壊れかけのベッドに、ごろん、と寝ころんだ。頭の後ろに手を組み、天井を見上げる。
高い天井には換気口が覗いている。
ここで三流娯楽ホロ・ムービーのスパイ物だったら、主人公は換気口から忍び込んで牢屋を脱出する、なんてのが定番だ。しかし、飛びつくには、とてもじゃないが手が届かない。
それでもパックは無意識だが呟いていた。
「あーあ、あの換気口に手が届けばな……高すぎて無理だけど」
ヘロヘロが振り向く。
「届くよ」
「へっ?」
パックは起き上がった。