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〝雑種〟

 突然、ミリィが高らかに笑い声を上げた。


「馬鹿なこと言わないで、シルバー。本気でパックを殺す気などないんでしょう? そう言えば、あたしが折れると思ってるに違いないわ」

 シルバーは眉を上げた。顔は無表情のまま、水のように静かである。

「違いますかな、ミリィさん。この小僧とどういう関係があるのか知りませんが、目の前で同じ原型の人間が殺されるとあれば、多少は心の痛みなど感じるはずだ」


 ミリィは首を振った。


「あたし、たった今、停滞フィールドから出されたところなのよ。知り合うなんて暇、ある訳ないでしょう? それに、もしパックを殺したら、ますますあたしは、あんたを信用しなくなる。そうなると困るのは、あんたじゃないの」


 シルバーは大きく溜息をついた。


「やれやれ……まったく、あなたという、お方は大変な娘さんだ。煮ても焼いても食えないとは、ミリィさんのことかもしれませんな!」


 パックの額に汗が噴き出してくる。

 丁々発止の遣り取りに、パックは呆然となっているだけだ。


 さっとシルバーは手を上げた。

「ともかく、あなた方は、しばらく当【鉄槌】に留まって頂きましょう。おい!」

 さっと手下の数人がパックの肩を掴み、物でも扱うように乱暴に引き立てる。

「その小僧とロボットは、ガラクタ倉庫にでも、ぶちこんでおけ! ミリィさん……」

 慇懃にミリィに向かい話しかける。

「あなたは、わたしの賓客として招待いたします。わたしとご同行を願えますかな?」

 そこで初めて気がついた、というように言い添える。

「よろしかったら、その腰の物、お渡し願えましょうか?」

 ちら、とミリィはこっちを見た。が、その視線はパックではなく、ヘロヘロに向けられている。ミリィは腰のホルスターから光線銃を抜き出し、銃把を先にして、シルバーに渡した。

「ヘロヘロまで、どうして?」

 シルバーは、くしゃっ、と顔を笑いに歪めた。

「これから晩餐を始めるつもりなのですよ。久しぶりに旧交を温めたいところなので、無粋なガラクタ・ロボット風情など、出る幕はないということですな! ま、こちらへどうぞ」

 腕を振ってミリィを招く。

 ミリィは肩を竦めた。

「まあいいわ。でも、約束して頂戴。あたしが居ない間に【呑竜】には指一本たりとも触れない、と。もしも、あたしが居ない間、押し入るような真似をしたら……」

 シルバーは両方の手の平を顔の前で振り、それを否定した。

「そんなことは致しませんとも! 第一、あなたのことだ。船を出る前に防護措置を取っておられるのでしょう?」

 ミリィは薄っすらと笑いを浮かべた。

「そういうこと! あたしの許しなくエア・ロックを開けたら、直ちに【呑竜】の自爆装置が働くわ! これは、脅しではないのよ」

 シルバーは頷いた。

「信じましょう。絶対に誰の手にも触れさせません!」

 ミリィは歩き出した。

「案内しなさい!」

 ミリィの命令にシルバーは先にたち、歩き出す。


 それを見送るパックとヘロヘロを、手下の〝種族〟が手にした武器を振って促した。

「歩け!」

 パックは相手を見た。

 ぶよぶよとした身体つきで、両手は鰭のような形に変化している。水棲生活に適応した身体つきで、初めて目にする種族だ。ちょっと河馬に似ている。

 両目が乾くのか、目尻に水分を補給するチューブが取り付けられ、時々チューブの先端から水がぴゅっ、ぴゅっと噴出して目を洗っている。


 その他、雑多な連中がパックとヘロヘロを取り巻いた。


 こいつら〝雑種〟だ! パックは驚きを禁じえなかった。


 遺伝子を変更した〝種族〟は、もともと人類である。従って、原型の人間とは遺伝子は〇・〇〇〇〇数パーセントほどしか違っていない。つまり原型と〝種族〟あるいは〝種族〟同士の結婚により、中間種が存在しえる。

 が、そういう例は絶無に近い。各〝種族〟は、おのれの出自に誇りを持っており、原型はおろか、他の種族をも内心では馬鹿にしている。理論上は中間種族は存在しえるが、広い銀河でも滅多に見当たらないのが実情だ。


 それがこの戦艦内部には、うようよ居るようだ。


 いったい、シルバーとは何者なのだろう?

 武器を突きつけられ、パックとヘロヘロは歩き出した。

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