格納庫
戦艦【鉄槌】の格納庫が大きく迫り、宇宙艇【呑竜】は今にも呑み込まれるところだった。
格納庫には数十名、いや百名にも及ぶ手に手に武器を持った〝種族〟が待ち受けている。全員が油断なく、銃口を通過する【呑竜】に擬していた。
二人は船窓に顔を並べて格納庫の光景を見守っていた。
ミリィはパックに銃を突きつけることを忘れているようだった。
パックは目の前の光景に首をかしげた。
「妙だな」
「なにが?」
ミリィが素早く言い返す。
「この戦艦は宇宙軍のものなんだろう? それにしちゃ、こっちを取り囲む連中、まるで制服なんか気にしちゃいない。皆、思い思いの格好だし、手にした武器も、てんでばらばらだ。本当に宇宙軍なのか?」
ミリィは目をまじまじと見開き、パックの顔を覗きこんだ。
「誰がそんなこと言ったの? シルバーの戦艦が宇宙軍に所属しているなんて与太を」
「その、シルバー本人がさ。警察の宇宙艇を、そう言って追っ払ったんだ」
ミリィは爆笑した。
「あっはっはっはっは! おっかしい! そんなシルバーの嘘っ八を頭から信じるなんて、なあーんて甘ちゃんなのかしら!」
パックは仰天した。
「嘘なのか?」
ミリィは笑い止んだ。
両手を振り回し、あたりを指し示した。
「当たり前じゃないの。こんな、小惑星を改造した宇宙戦艦なんて、正式の宇宙軍艦艇の中にある訳ないわ!」
パックはあんぐりと口を開け、ようやく言葉を絞り出す。
「そ、それじゃ、シルバーの正体は?」
「宇宙海賊よ。ま、百年も経っていたら、あんたが知らないのも無理はないわ。百年前……あたしにとっちゃ、ついこないだだけど……あいつったら、あたしのお祖父ちゃんの恩も知らずに、さんざっぱら宇宙を荒らし回った挙げ句、今度はあたしの【呑竜】を狙ったのよ……。でも、どうして楽々と掴まったりしたの?」
おずおずとヘロヘロが説明を開始した。
百年間、ずっとスクラップに埋まっていたこと。パックが【呑竜】の封印を解いて宇宙へ飛び出したこと。警察の包囲を振り切るため、亜光速の速度で突進したこと……。
最後のくだりでミリィは叫んだ。
「それよ! 亜光速を出すため、無反動スラスターを使ったんでしょう? スラスターの宇宙に残す航跡を、シルバーの奴め、感知したんだわ! それで、ここで待ちうけ、牽引ビームで動きを止めた。まさに、飛んで火に入るお馬鹿虫、って状態ね!」
最後のセリフはパックに向けて言ったものだった。パックの胸に怒りがこみ上げる。
「そんなこと、おれが知るわけないじゃないか! あのシルバーがこの宇宙艇を欲しがっていること、ヘロヘロは何にも言わなかったぜ!」
ミリィが言い返そうとしたその時、宇宙艇の動きが止まった。