警告
ここまで読まれてきて、なんだこの作者はSFの基本的な約束事も知らないド素人だとお思いになられただろうか?
宇宙空間で音がするわけ絶対ないのに……。
そうである。それは正しい。
しかし、この宇宙艇には「環境音再現システム」が搭載されているのだ。宇宙艇の外部探査システムに感知されたあらゆる事象が、このシステムによって効果音を再現されているのである。
巨大な宇宙戦艦が立てる轟音、爆発音、あるいは恒星の立てる太陽風などの現象が、船内に仕掛けられたスピーカーを通して再現されるのである。
なぜか? それは、いくら「真空中では音がしない」と頭では分かっていても、ついつい人間は目の前のあらゆることに音がするはず――という思い込みにより、事故を避けられないからであった。
危険なものが接近してきても、音がしないと、つい見過ごしてしまう。そういう失態を防ぐため、この「環境音再現システム」が宇宙船はおろか、宇宙服にも装備されている。
以後、文中に真空中で音がする描写があったら、読者は、よろしくこの「環境音再現システム」のなせる業であることを、ご理解頂きたい。
さらに付け加えると、このシステムは、視覚にも当てはまる。
光の届かない宇宙空間で、宇宙船の姿がスクリーンに映し出される、あるいは真空中でレーザー光線が目に見える、などは「環境視覚再現システム」が活躍しているのである。
さて、それでは、ミリィとヘロヘロの運命はいかに?
スクリーンにミサイルが爆発し、ちかちかと火花を散らす。環境音スイッチを切っているので、無音である。
「下手くそ! ちっとも当たらないじゃないの!」
ミリィはスクリーンに目をやり、嘲るような声を上げた。
隣のヘロヘロが叫んだ。
「違うよ! 停船せよと警告してるんだ!」
ヘロヘロの指摘は図星だったので、ミリィは唇を引き結んだ。充分すぎるくらい警告は受けた。今度は、相手は本気で狙ってくるだろう。
ヘロヘロの操縦席に、ライトが瞬いた。ヘロヘロはミリィを見上げ、声を掛ける。
「ミリィ、相手が呼びかけてきた。どうする?」
ミリィは頷いた。
「回線を開きなさい!」
二人の目の前のスクリーンが明るくなり、そこに一人の男が姿を表した。