掃討
「シルバーっ?」
ミリィが悲鳴のような声を上げる。
「あんた、何を考えてんのっ?」
「下がってろ! 来るぞ!」
シルバーは両腕を広げ、ミリィとパックを押し倒す。「わあ!」と悲鳴を上げ、ミリィとパックはシルバーの巨体に押しつぶされるように、床にべったりと腹這いになった。
途端に「ごおっ!」と轟音を上げ、通路の隔壁が吹っ飛んだ。壁にまん丸な穴が穿たれ、そこから内部の空気が、一気に外部の真空に向けて吸い出される。
猛烈な風が吹き荒れ、パックは強烈な勢いに身体が飛ばされるような恐怖を味わった。
開いた穴を見ると、外部の宇宙空間に宇宙船が浮かび、その横腹から蛇腹のようにエア・ロックが伸びてくる。エア・ロックはその鎌首をふらふらと動かし、ぶち開けた隔壁の穴にぴったりと貼りついた。
即座に猛烈な風は、ぴたりと止まり、急激な減圧で空気中に細かな霧が漂う。
穴から次々とシルバーの部下が飛び出し、うろたえている宙森の敵へ殺到した。同時に密着したエア・ロックから、どっとばかりに空気が内部に吹き込んでくる。そのため戦闘の煙は吹き払われ、新鮮な空気が満たされていた。
あれほどの抵抗を見せた敵側は、あっけないほど簡単にシルバーの部下の進入を許す。喚声を上げて殺到するシルバーの軍勢に、悲鳴を発し、見っともないほど無様な敗走を開始した。
その顔を見ると、ごく当たり前の、戦いに恐怖を感じている兵士の表情であった。
「ふうーっ」とパックは息を吐き出した。
ふらつく足を踏みしめ、ようやく立ち上がり、ミリィを助け起こす。ミリィは呆然と乱れた髪の毛を掻き上げた。
シルバーの部隊は掃討作戦を展開していた。
空気が入れ替わったせいか、宙森の部隊には完全に戦意がなくなっていた。
がちゃ、がちゃりと音を立て手にした武器を投げ出し、へたへたと膝を折って、シルバーの部隊に降伏の意を顕わにする。
「【大校母】は、どこにいるっ? お前ら、知っているのか! 司令センターにいるのか?」
ずかずかと降伏している兵士に歩み寄り、シルバーが噛みつかんばかりの勢いで質問している。顔を上げた敵兵は、ゆるゆると首を振って返事する。
「わ……判りません……わたしら、ただここを守れと、上から言われただけです」
わくわくと唇を震わせ、一人の〝種族〟が哀れっぽい声を上げる。皮膚が古革のような皺に埋もれた〝種族〟で、身体は貧弱で、とても戦い向きの身体つきをしていない。
「うぬう……!」とシルバーは唸った。
ひそひそとシルバーの部下が尋ねる。
「どうします? このまま、司令センターへ直行しますか?」
シルバーは、ぶるん、と頭を振った。
「判らん! 【大校母】の奴、のうのうと司令センターに留まっているとも思えんが……しかし、他に当てはないしな……」
しばし、考え込み、シルバーは決断を下したかのように一同に向かって叫ぶ。
「よし! おれたちは司令センターに向かう! お前たちは、ここで待機しろ。パック! ミリィ! 行くぞ、従いてこいっ!」
返事も待たず、シルバーは走り出す。
ミリィはぽかんと口を開け、パックに向かって呟いた。
「呆れた……! シルバーったら、すっかりあたしたちを部下だと思っているわ!」
パックは肩を竦め、歩き出す。
「細かいこと、気にすんな! とにかく、追っかけようぜ!」