スイッチ
背後のモニターには、【鉄槌】上陸部隊の揚陸強襲艦が防護バリアを次々と突き抜け、格納庫に着地してくる。
着地した瞬間、大型のハッチが開き、中からバトル・スーツを装備した兵士が現れた。兵士たちはさっと武器を構え、宙森の軍隊に狙いをつける。双方でたちまち接近戦が開始される。
パックは横噴射を利かせて【弾頭】を横滑りさせながら甲板に着地させ、艦体を盾にした。【鉄槌】側の戦闘員は、さっと【弾頭】の艦体ごしから攻撃を加える。
宙森の攻撃側は、じりじりと後退を始める。
ついに支えきれず、スポークへと追い込まれていく。大慌てで手近の木製の装備を引き剥がし、バリケードを築き上げる。
【鉄槌】の戦闘指揮官が、嗄れ声を張り上げた。
「突っ込めえええっ!」
「うおおおっ!」と雄叫びを上げて【鉄槌】戦闘員が格闘斧を手に走り出す。宙森側の木製のバリケードを、戦闘員の斧が叩き壊し、突入口を切り開く。
攻防は一進一退を繰り返した。が、【鉄槌】の攻撃が優勢で、宙森の戦闘員は遂に雪崩を打つように退いていく。
それを見て、シルバーが勢い良く立ち上がると猛然とエア・ロックへ向かった。
「行くぜ!」
パックは叫んでシルバーの後を追ってエア・ロックから外へ飛び出した。ミリィとヘロヘロ、ガラスの管理人が続く。
と、パックは立ち止まった。エア・ロックから艦内を覗き込むと、アルニが真っ青な顔で立ち竦んでいる。
「あ、あたし、行けない……!」
両手を組み合わせ、身を捩るようにして、いやいやをする。パックは肩を竦めた。
すると、シルバーがさっと艦内に飛び込んだ。ぎろりと立ち竦んでいるアルニを睨みつけ、轟くような声で吠えた。
「どうした! 何を愚図愚図している?」
アルニの瞳に涙が溢れる。
「許して……!」
シルバーは「うむ」と頷いた。
「よし、お前はここで、おれたちを待て。そうだ、お前に任務を与える。ここへ座れ!」
いきなりシルバーはアルニの両脇に手を入れ、抱え上げると操縦席に無理矢理ぐいっと座らせる。
呆然とアルニは目の前のコンソールを見つめる。シルバーはコンソールの一角を指差した。
指先には一個のボタンがあった。てきぱきとシルバーはコンソールの装置を操作して、なにか調整している。その作業を続けながら、アルニに話し掛けた。
「これが見えるな? もしものときは、こいつを押せ! ただし、命の危険がありそうなときに限るぞ!」
アルニは青ざめた顔をシルバーに向けた。
「押すと、どうなるの?」
「自爆する。【弾頭】の核融合炉が崩壊し、一瞬で跡形も残らない。安心しろ、苦痛はない」
「自爆!」
シルバーの冷徹な口調に、アルニは卒倒しそうな顔つきであった。シルバーは片手をアルニの肩に置いた。
「頼んだぞ。いいな!」
アルニは目を一杯に見開き、がくがくと操り人形のように何度も頷く。シルバーの口許に微かに笑みが浮かぶ。パックたちに顔を向け、怒鳴った。
「行くぞ! 思わぬ手間を取った」
パックは「うん」と頷き、再び外へ飛び出した。飛び出す寸前、ちらりと艦内を覗き込むと、アルニは目の前のボタンを見つめ、彫像のように凍り付いている。
大股で歩くシルバーに追いつき、声を掛けた。
「さっきの自爆スイッチって、なんの冗談だい?」
シルバーは、ぐずりと笑いを零した。
「気がついていたのか? まあ、ああ言えば、あの娘は、余計なことを考えて悩まないだろうと思ってな」
「じゃあ、あのボタンは?」
シルバーは歩きながら【弾頭】を振り返る。釣られてパックも見上げると、船窓からアルニが心細そうな表情で見送っていた。
「まあ、本当にあの娘が生命の危険を感じたら……押すかどうか判らんが、もし押したら驚くこと請け合いだ!」