バリア
「格納庫入口は、防護バリアが張られているぜ! どうする?」
操縦席の表示を読み取り、パックはシルバーに振り返って叫ぶ。シルバーは「ふん」と鼻を鳴らし、冷静な口調で返事する。
「構わん! このまま突っ込め! 防護バリアの役目は、本来ビーム攻撃を中和することにある。物質の突入には役立たん。バリアの境界を突破するとき、不快な気分になるが、気にしなくてもいい」
宙森の格納庫入口は、真っ黒な防護バリアが張り巡らされ、内部の様子は窺うことができない。「ままよ」とばかりにパックは姿勢制御噴射を効かせ、【弾頭】の楔形の船首を入口へと突っ込ませる。
隣席ではミリィが刻々と接近している宙森の格納庫までの距離を読み上げている。
「距離一〇〇〇……八〇〇……六〇〇……」
艦内に衝突警報が鳴り響く。ディスプレイには艦のコースを変えるよう、コンピューターがしつこく報告を表示している。遂に人工音声が発せられた。
「本艦は前方の物体と衝突の危険があります。コースを変更することを忠告します。繰り返します本艦は前方の……」
「うるせえっ!」
シルバーが声の限りに怒鳴る。
ぴた、と警報音が停止した。
パックはシルバーを見て「どういうこった? 黙らせちまったぜ!」と声を掛けた。
シルバーは肩を竦めた。【弾頭】はシルバーの所有物である。シルバーの命令にはすべて最優先権が与えられている。艦内のコンピューターは、シルバーの声紋を認識して、その命令に従っただけなのだ。
ミリィが目を見開き、接近してくる宙森の格納庫入口を睨み、宣告する。
「距離一〇〇!」
【弾頭】の楔形の船首が、宙森格納庫入口全体を覆っている、真っ黒な防護バリアに突っ込んでいく。船首が突き刺さる瞬間、防護バリア全体に漣のように青白い光が波打った。
バリアを通過する瞬間、パックの全身に、言いようのない冷気が貫いた。
「わっ!」「ひっ!」とアルニとヘロヘロが小さな悲鳴を上げた。
ばちばちばちっ! と【弾頭】の船窓に火花が散る。見ると格納庫には手に手に武器を持った宙森の軍隊が待ち構えていた。