混乱
生きている炎のようなシルバーは、開いている【弾頭】のエア・ロックに飛び込んだ。
途端に【弾頭】内部の自動消火装置が働き、ぶわーっと真っ白な消火液が噴出する。
「ぐわあああっ!」とシルバーは怒りの咆哮を上げる。消火液を振り払い、シルバーは叫んだ。
「おれは、これが嫌いなんだ! 畜生!」
ぶすぶすと衣服が焦げる音とともに、煙が舞い上がる。消火装置はしつこくそれを感知し、シルバーの身体に消火液を浴びせていた。遂にシルバーはレーザー・ガンを構え、消火栓を狙い撃った。
ぼん、と音を立て、消火栓が弾けとんだ。
身体に纏いついた消火液を振り払い、シルバーは唸り声を上げ、艦内に飛び込む。
パックとミリィはエア・ロックから内部を覗き込んだ。ここから先はシルバーが何をしているのか、確認できない。
足音に振り返ると、ヘロヘロとアルニが小走りで近寄ってくる。その背後から近づく人影を見て、パックは目を丸くした。
ガラスの管理人だ。
今は元の透明な身体に戻り、軽い足取りで近づいてくる。
「お祖父ちゃんは?」
ミリィが小声で管理人に話しかけた。管理人は小さく頷いた。
「あのような混乱状態では、教授の話を誰も聞こうとはしませんからね。ですから、わたしが代わりになって様子を見に来た、という訳です。シルバーとかいう金属人間は、いったい何をしに来たのですかね?」
管理人が話している間にも、立方体の内部から戦いの物音が聞こえている。もう、お互い何のために戦っているのか判らなくなっているようだ。
管理人は、ちょっと肩を竦める動作をした。
「あのままでは、折角の記録保管庫が修復不能に陥る可能性があります。彼らには少し、頭を冷やしてもらいましょう」
透明な片手を挙げ、何か素早く指先を動かす。と、立方体の方角から聞こえてくる騒乱の音が、ぴたりと止まった。
パックは物入れから小型の望遠鏡を取り出し、立方体の内部を探った。
「ありゃ! みーんな、止まっちまっている。まるで凍りついたみたいだ……」