奔流
「どなたかな?」
【大校母】の怒りの表情にもまるで動ぜず、教授は丁寧な口調で話しかけた。【大校母】は顔を真っ赤にさせ、噛みつくように喋り出す。
「原型以外、超空間ジェネレーターを起動させられないという話は、本当なの? それは決まったことなのですか? 妾には信じられませぬ。そのため、妾は原型の脳を使った計画を推し進めているというのに……」
教授の眉が顰められた。
「計画? 原型の脳を使った?」
「そうです!」
【大校母】は、ぐい、と頭を揺するようにして自分の〝楽園計画〟の全貌を話し出した。
聞いているフリント教授の顔つきが徐々に険しくなる。最後まで【大校母】が話し終えると、強く首を振って口を開く。
「そのような手段では、銀河の危機は避けることは金輪際できない! 問題は〝種族〟の増殖によるものだからだ。あなたは自分以外の総ての〝種族〟を亡ぼすつもりか?」
【大校母】の目付きが鋭く光る。
「必要ならね……。フリント教授、あなたは銀河系で居住可能な惑星を多数、発見なさったそうですね。その星系の座標を妾に示しなさい! 妾の〝楽園計画〟には、その星系の座標が必要なのです。居住惑星の数が増えれば増えるほど、観測させる原型の居住惑星が増えるのですから」
その場にいた宙森の侵攻部隊が全員さっと武器を構える。緊張が高まった。
サークを守っていたルーサンが「野郎……」と、似合わない唸り声を上げた。
宙森から脱出してきた原型の人々も、武器を持っていた。覚束ない手つきながら、それでも自分たちの武器を手に取り、対抗する構えを取った。
「やめろ! こんなところで射ちあいなど、暴挙以外の何物でもないぞ!」
堪りかねて教授が叫ぶ。だが、教授の叫びは、逆に緊張の糸をぷっつりと断ち切ったかのようだった。
どちらが先に武器の引き金を引いたのか、真紅のレーザー光が、さっと斑模様を映し出している壁面を撫でる。その途端、総ての壁が強烈な光芒を放ち、全員の目を眩ませた。
「わあ!」と光の奔流に誰かが悲鳴を上げた。