崩壊
この騒ぎで、総ての壁面には無数の光の紋様が浮き出ている。巨大頭は目にルーペに似た分析装置を押し当てた。
機能はルーペそのものだが、様々な波長、拡大率を同時に走査でき、単純な拡大鏡とはとても言えない。
その途端「わっ!」と声を上げ、巨大頭は顔を仰向けた。どさり、とその場に引っくり返り、幼児のような手足をばたばたとさせる。口許からぶくぶくと泡が零れた。
シルバーは驚いて駆け寄った。
「おい、どうした?」
ひくひく、と巨大な頭蓋骨の皮膚に、無数の血管が浮いて〝巨頭種族〟は、青ざめた顔でシルバーを見上げる。その目に浮かぶのは、恐怖そのものであった。
「こんな……こんなことって……!」
呟くと、眼球が白目に裏返り、そのまま気絶してしまった。
シルバーは再び教授に向き直り、どすどすと足音高く近づくと喚いた。
「教授! いったい、ここは何の目的で建てられた場所なのだ? 知識の集積所とか、ほざいていたな? その意味は何だっ?」
詰問の声に、教授は我に帰った。うつろだった視線が喚き散らすシルバーに戻り、眉がぐっと狭まり、表情に暗い影を作った。
「さっきも説明しかけていたが、現在この銀河系は崩壊の危機にある。それを食い止めるため、わしはこの建物を作ったのだ」
さっとシルバーの表情が真剣なものになった。怒りの表情が掻き消え、冷静そのものに変わる。
「銀河系の崩壊? なんだ、そりゃ?」
じっとシルバーを見つめる教授は、言葉を続ける。
「多分、わしが後年お前のような身体を設計したのは、その危機が原因なのだ。危機に対処するための一つの方法だったのだろうな。しかし、他にお前のような個体が存在しないところを見ると、試みは失敗したのだろう」
シルバーの表情に、再び怒りが浮かぶ。
「おれが、失敗作だと……」
シルバーの口調は軋むようであった。