知識
「銀河の危機とは……」と口を開いたフリント教授は、ふと顔を上げ眉を寄せた。
「今のは、何だ?」
教授の言葉に全員、不安そうな顔を見合わせる。
パックが叫んだ。
「揺れているぞ! 地震か?」
ずしん……と、内部に低い震動が響き渡った。黒い壁に無数の輝点が湧き上がる。
今度は、はっきりと、全員の身体に伝わるほどの振動が伝わった。
パックは背後を振り返る。真っ黒な闇が切り裂かれ、眩しい外光が差し込んでくる。
ぎえええ……と、悲鳴に近い軋み音とともに、周りの壁がぼろぼろと剥落し始めた。一抱えは優にありそうな真四角な黒い固まりは、床に落下するとさらに小さな四角い固まりに分解してがしゃりと音を立て、散らばる。
思わず屈みこんで一つを手に取り、握りしめると、手の平の中でぐしゃりと潰れた。手の平を開くと、やはり真四角な欠片となっている。
どさどさとブロックが内側に倒れこむ中、外部から武器を手に、数十人の〝種族〟が雪崩れ込んでくる。その先頭を歩く人影を見て、ミリィとパックは同時に声を上げていた。
「シルバー!」
シルバーは二人の声に気付き、にやり、と笑いかけた。ぎょろりと大きな目で内部を見渡す。
と、その目が壇上に立っているフリント教授の姿に釘付けになった。
「フリント教授! 死んだはずではなかったのか?」
壇上のフリント教授は猛然と怒りの声を上げていた。
「何者だ! ここは人類の知識の集積所なのだぞ。お前たちが破壊しているのは、かけがえのない知識、そのものなのだぞ!」
叫びつつ、指を振り上げる。
その様子に、シルバーは一人「なーるほど」と頷いていた。
「察するところ、あなたは、フリント教授の記憶の再生らしいな。おれの姿を見て判らなかったのが、その証拠だ」
フリント教授は、ぽかんと口を開け、パックとミリィを見た。
「こいつは、何を言っているのか? 一目でわしが再生された記憶であることを見抜くとは、只者ではないが……」
パックは叫んだ。
「だから、こいつがシルバーなんだって! あんたが記憶を保存したあと、下働きのロボットの記憶を新しい身体に移植したって説明したろう?」
教授は仰天した様子だった。
「あれが、シルバー! なんとも変われば変わるものだ……」
しかし教授の目付きは興味深そうにシルバーを見つめていた。
「その身体は炭素を基にしたものではなく、金属を主成分としているらしいな。ふむ、興味深い……! となるとDNAではなくGNAで核酸を構成しているのか。なぜ、わしがお前のような身体を設計したのか、その理由が知りたいな。おそらく……」
教授の視線はうつろになり、自分だけの思索に耽り始めたようだった。
ミリィは、そんな教授を見上げ、苛々と足踏みを繰り返す。
「お祖父ちゃん! 今は、そんなこと言っている場合じゃないでしょう? どうするの、この場所が、こんなに破壊されて……!」
二人の間延びした遣り取りに、シルバーは高笑いを上げていた。
「あははははは! 教授は、こんな記憶の再生になっても、相変わらずだな! さすがは真理の探究者、といったところか」
ひとしきり笑いを上げると、背後から近づく移動橇に乗った巨大な頭の〝種族〟を振り向き、命令する。
「おい! ここはいったい、どういう場所なのだ? お前には判るか? フリント教授は、知識の集積所と言っていたが」
巨大な頭を振りたてて〝巨頭種族〟は、まだ無事な壁面に近づいた。橇から伸び上がるようにして壁面に顔を近づけ、大きな丸い目をまじまじと見開いて、壁面に映し出されている紋様に見入る。