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第25話「役員メンバーの人となりを把握してください」

「会長、ありがとうございました」


 レフィーヤの澄んだ、温度を感じない声が淡々と告げる。挨拶が受け入れられたことで少しだけ弛緩したと思われた空気が、また張り詰めるのを感じた。


「では議事に入る前に――」


 彼女が卓上の書類を指で叩くと、紙片が揺れて小さな音を立てた。


「今年度、エデュカスコラPTAの中枢を担う9名、順に自己紹介を。名前と役職、学校との関わりなど、三十秒以内でお願いします」


 既に張り詰めたと思った空気が、さらに一段階引き締まったようだ。彼女の声で三十秒とか言われると無駄に緊張するんじゃなかろうか。自分の挨拶が先に終わっていてよかった、などと思ってしまう。

 レフィーヤの視線が、正面に座る同じ副会長を捉えた。というか、射抜いた。既に名前はレフィーヤの口から出ていたが、その気弱そうな男性は、一瞬身を震わせると青い顔をしてゆっくりと立ち上がった。緊張がこちらにも伝わってくる。


「はい、ええと、ベルシュト・フランプル。ふ、副会長です。あっ、昨年度に引き続き、です。七年生の娘と、四年生の息子がいて、その……大変お世話になってます。古書店をやっています。宜しくお願いします」


 つっかえながら、しかし三十秒のリミットはどうにか守って、フランプルは自己紹介を終えた。パラパラと控えめな拍手が聞こえてきたので、せめて俺は大きな拍手を送る。こんなにオドオドしなくてもいいのに、と思ってしまうが、今の少し白けたような拍手の感じからすると、今日の遅刻意外にも何か事情があるのかもしれない。できれば後で話をしてみよう。

 フランプルは控えめに頭を下げると、申し訳無さそうに腰を下ろした。


「続いて会計、お願いします」


 レフィーヤは特にフランプルの挨拶について言及することなく、自己紹介の先を促した。古書店なんて興味深い職業、俺が司会をやっていたら絶対に深掘りしたいところだが、レフィーヤの仕切りなので口を出すのは憚られた。というか彼女の課した三十秒の制限を超えて雑談を挟むなんて怖すぎてできない。

 これを受けて、並んで座っている会計担当者と思しき二人が視線を交わして頷き、一方の細いフレームの眼鏡をかけた栗色の髪の女性がすっと立ち上がった。


「ルヴァ・グレンカ、四期目の会計を務めます。銀行で融資の審査を担当しています。八年生に双子の息子がおります。今年度も宜しくお願い致します」


 レフィーヤほどではないが、感情を排した低く落ち着いた声音だ。自己紹介も端的である。四期目ということは既に三年間会計を務めているということになる。相当のベテランだ。惜しみない拍手を送る。グレンカが着席すると、隣の女性が勢いよく立ち上がった。


「皆さんこんにちは、ラグレット・エルナルナです!今年度からグレンカさんの会計をお手伝いします。五年生の息子と、一年生の娘がいます。家はパン屋をしていますが、会計のことはこれから勉強します!未熟者ですが、宜しくお願いします!」


 小柄な彼女は、その場の全員を見渡すと大輪の笑顔で頭を下げた。エルナルナ、なんだかとっても元気な女性だ。パン屋の看板娘いや看板母といったキャラクターだろうか。明るい茶色の髪と大きな瞳は彼女の性質とマッチしているように感じる。会計っぽさはあまり感じないが、自身と同じ一年目、「一緒に頑張ろうね」という気持ちで温かい拍手を送った。レフィーヤの発する冷気に凍てついたPTA室に、少しだけ春が近づいた気がする。……これは流石に副会長に失礼か。


「続いて書記」


 レフィーヤが促す。席次的には、グレンカの向かいに座っている人だろうと当たりをつけて眺めていると、長い黒髪の落ち着いた雰囲気の女性がすっと立ち上がった。身長が高くて姿勢がよいのが印象的だ。紺色のジャケットを羽織っている。


「クレーヴィン・ミレイネと申します。昨年度より書記を拝命しております。王務局法務課で速記官を務めています。七年生と三年生の娘がおります」


 シンプルに、軽い会釈で締める。ミレイネ、俺と同じ公務員だ。速記官ということは、実務でも主に記録を取る係ということになるだろう。グレンカもそうだが、何かに秀でた人がその技能や優秀さを活かしてPTAのタスクを処理しているという状況、本人さえよければPTA組織にとってはこれが望ましい形なのかもしれない。しかし、「できる」人がやるのが当たり前になってしまうと、今度は後任者への要求レベルが高くなり、クレームに繋がることもある。PTA活動は本当に難しい。


 そのミレイネから視線を送られ、頷いて立ち上がったのは赤銅色の髪が印象的な、俺の――いやアキルの、というべきだろう、よく知った男だった。


「はじめましての人がほとんどだな。新年度から広報を担当するランザム・エアロスです。剣塾というところで剣を教えていて、子ども達からは塾長と呼ばれることが多い。六年生と三年生に息子が1人と、二年生の娘がいる。ああ、あとは」


 エアロは俺を見て、にっ、と笑う。


「会長のアキルとは学生時代からの長い付き合いになる。会長ともども宜しく」


 こいつ、かなり攻めてきたな……三十秒以内という要件は守っているものの、口調はかなり砕けているし、書記という責務には特に触れず俺の友達だということに言及してきた。昔から自由な男だとは思っていたが、こういう場でもその奔放さを見せつけられるとは、危なっかしいような安心するような不思議な気分だ。レフィーヤから窘められるのではと気を揉んだが、彼女はそのまま流すらしい。


「学年部」


 レフィーヤの怜悧な声が、さらに次を促した。


「学年部部長のオードネル・ベラ、昨年も学年部として活動しておりました。六年、四年、三年生に娘が三人おります。学年部は学校行事のサポートや保護者の集いの企画などを中心に担当しております。今年度も宜しくお願い致します」


 温かく柔和なアルト音域の声色が安心感を与える。ふんわりとした茶色の巻き髪が特徴的なベラは、語り口からも柔らかで母性的な人格を想起させた。


 「広報部」


 待ってましたとばかりに両手をテーブルについて立ち上がったのは、鮮やかな赤い髪に赤のストールを合わせた、華やかな装いの女性である。まつげが長く大きな瞳も特徴的だ。


 「エヴァンス・クレナイ、広報部部長です。広報誌を作成するのが主な活動ですが、今年度は色々と面白そうなので広報誌を増刊して作りたいと思っております!皆様、取材へのご協力よろしくお願いします!」


 テンション高めの声音で一気にまくし立てるクレナイ。「今年度は色々と面白そう」って、何のことだろうか。そのタイミングで一瞬目が合ったのがちょっと怖い。そして広報誌増刊って、予算は大丈夫なのか。今年度予算はこれからだから調整次第なのかな。


「クレナイ、広報誌の件は後ほど会計を交えてお話させてください」

「はいはいー、よろしくお願いします!」


 おそらく事前に話を通していなかったであろうレフィーヤの凍てつく鋭い視線に射抜かれても全く動じることなく、クレナイは心底楽しそうな笑顔を崩さない。胆力のある女性だ。あれ、そういえば子どもの学年を聞いてないな……。この挨拶は、別に型どおりということはないみたいだ。


「最後ですね。校外部」


 俺から最も遠い席にかけていたダークグリーンの短髪が印象的な女性が立ち上がった。引き締まった体躯とかなりの長身の持ち主で、おそらく百八十センチメートルを優に超えている。この場には彼女より長身の人物はいない。


「校外部部長、ハルトマン・ジェノヴィアと申します。新年度から九年生、七年生になる息子がおります。王務局・軍務課所属の軍人です。何卒宜しくお願い致します」


 軍人。ジェノヴィアは軍人さんだったのか。言われてみれば、その隙のない立ち居振る舞いと、光の加減によってうっすら見える頬の傷は正に軍人然としている。


「以上、今年度の役員会メンバーです。会長、お見知りおきを」


 俺に向き直り、レフィーヤは告げた。俺は頷いて、それから、そのまま首を傾げた。あれ?

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