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序章2

「先程はありがとうございます、救世主様」


 王様が救世主のために用意したという広々とした豪華な調度品が並ぶ一室。

 そこへ通されたボクに、案内してくれた近衛兵の方は周囲に誰もいないことを確認すると、そう言って深々と頭を下げた。

 全員鎧姿だから見分けがつかなかったけど、多分王様に迫られていたボクを助けてくれた人だろう。


「えっと……」


「申し遅れました。オレ……、いえ、私の名はクルス・バンガード。この国の近衛兵の一人を務めさせていただいております。重ねまして、先ほどは我が祖父を助けて頂き、ありがとうございます。救世主様が真実を語っていれば、オ……。私の唯一の家族である祖父は、怒りに狂った王の手によって、もうこの世には存在しなかったでしょう」


 あっ、比喩とかじゃなくてほんとに処刑してたんだ……。


「いえいえ。ボクの方こそ、あの時王様から助けて頂いてありがとうございます。……それと、どうぞ話しずらいようでしたら自然な口調でお話しください。ご存じの通り、ボクは本当の救世主ではないみたいですので」


 ボクがそう言うと、クルスさんは扉を開けて更に付近に誰もいないのを確認し、兜を脱いで大きく息を吸い込むと、大きな手でボクの手を握り、


「いやいや、マッジで助かったつーの! 始めにお前のアレを見ちまった時には『終わった……』って絶望しちまったけど、お前のおかげでじーちゃんの命は助かった! 確かにお前は世界の救世主じゃなかったけど、オレにとっては間違いなくマジで救世主だからな‼ オレにできることなら何でも言ってくれ、絶対に力になってやる‼」


「…………」


 クルスさんのあまりの変貌ぶりに、ボクは思わず目を白黒させる。

 丁寧な喋り方をしていた時は、てっきり金髪のいかにも騎士って感じの人かと思ったけど、夕日のような色に染まった短髪にキラキラとした目でボクを見つめるクルスさんは、どちらかというと戦士とかそういう感じのイメージに近かった。

 世が世なら、さわやか系のイケメンともてはやされただろうなあ。


「どうかしたのか?」


「いえ……。そういえば、ボクをこの世界に召喚したのって、クルスさんのお爺さんなんてすよね? ボクを召喚してたあと、気絶していたように見えたんですけど……。体調の方は大丈夫ですか?」


「まあ、単なる魔力切れってやつだ。命に別状はねえけど、こっちの世界じゃ魔力の自然回復は年齢と共に少なくなってくからな。本来なら、そっちの世界もある程度知ってるオレの爺ちゃんがこの世界のことを教えるって目的で救世主様の旅に同行する予定だったんだけど、それも難しいだろうな」


「そうですか……」


「そんな不安そうな顔すんなよ。……多分ではあるけど、その度の役目は恐らくオレに任命されると思うぜ? なにしろ、オレはお前を召喚した爺ちゃんの身内。一応、そっちの世界についての知識も、ある程度は爺ちゃんから聞いてるからな。今日のうちに、あの王に進言してみるつもりだ」


「旅、ですか……」


 ボクを安心させようとそう言ってクルスさんは笑いかけてくれるが、それとは裏腹にボクの内心は不安でいっぱいだった。

 当然だ。これが漫画やアニメだったら、女神様からもらったすごい能力や、元々持ってた異能なんかを使って魔王討伐の旅に出るのだろう

 だが、生憎ボクは本物の救世主なんかじゃない。

 学業の成績もそこまで高くなく、スポーツもさほど得意とは言えないこんなボクじゃ、魔物なんてモンスターが蔓延るこの世界では、いくらクルスさんが同行してくれたとしても生きてはいけないだろう。

 そのことをクルスさんに話すと、


「あー、悪い。俺の説明不足だな。旅に同行するっつっても、あくまでフリだフリ」


「フリ?」


「おう。お前が本物の救世主じゃないなんてことは、オレが一番よく知ってる。でも、一応形だけでも旅に出ておかねーと、あの王がなにするか分からねーだろ? だから、オレと一緒に旅に出るフリして、どっかの街にでも行って行方をくらますんだよ。じーちゃんの魔力切れさえなんとかなれば、お前を元の世界に返せるからな。オレはその間のボディーガードってわけだ」


「い、言われてみれば……」


 クルスさんの言うように、あまりにもこの状況が異世界系でよくある展開過ぎて失念していたけれど、クルスさんのお爺さんが魔力切れから復帰すれば、普通に元の世界に帰れるんだった。

 それまでの生活で困る事はあるかもしれないけれど、魔物を相手に戦うことに比べれば全然マシだし、事情を知っていて近衛兵もしているクルスさんと一緒というのも心強い。


「ようやく安心してくれたみてーだな。さっきまで死刑宣告された奴みたいな顔してて、見た目がマジで美少女だからってのもあって、見てて忍びなかったからな。まあ、戦いがほとんどない世界からこんな世界に連れてこられりゃ、そんな気持ちにもなるわな」


「いえ、気を遣っていただいてありがとうございます」


「これくらい気にすんなよ。とりあえず、今日はしっかり飯食って休んどきな。ただ、問題は風呂だな。兵舎の風呂が使えりゃフォローできんだけど、さすがに無理だよなあ……」


 フォローしてくれる気持ちはありがたいけど、ちょっとそれは無理だろう。


「ほかに場所はないんですか?」


 ボクの言葉に、クルスさんが苦い顔をする。


「あるにはあるけど、王族とか貴族連中専用の風呂なんだよ……。まあ、幸いここ最近は他の貴族連中が来るって話は聞かねえし、王族は決まった時間にしか入らねえから大丈夫だろ!」


 この会話から数時間後。

 クルスさんのこの言葉が盛大なフラグになっていたことを、ボクは身をもって知るのであった。



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