風見 美穂さんの Pressure Drop
私は明日、春休み中にも関わらず学校に行く。
それは私の友人、上篠 菜絵の弟君が、クラス分け編成テストを行うため。
生徒指導委員会の副会長である、私が試験補佐をするため。
「はぁ。めんどくさ…」
春休み中に学校かよ。
しっかし、上篠に弟がいたとは驚きだな。
イケメンだったらいいな。
ずっとフランスで暮らしていて、日本語があまりうまく話せないって言っていたけど、それもそれで驚きだ。
何で弟君だけフランスにいたんだ?
まあ、他人の家の事情に、首を突っ込むのは良くないな。
「はあ。マジでイケメンだったらいいな…」
当日、9時55分。
学校に到着した私。 連絡をもらった試験会場、化学部の隣にある、空き教室に入った。
机が3つ並べてある。
しかも弟君を見守るように、両サイドの机は真ん中に向けられている。
こりゃ拷問に近いですぜ。 弟君、可哀想に…。
私はバッグを後ろの棚に置き、カーテンを開け、窓も開放した。
春の爽やかな空気が室内に入る。
そんな気持ちの良い風と共に、廊下から話し声が聞こえてきた。
「えー!? お姉ちゃんって呼んでよ!」
「うん。 菜絵姉さん、頑張ってきます!」
「うーん。 まあいっか。はい、頑張ってね」
お姉ちゃんって呼んでよって!
上篠ちゃん可愛いじゃないの。
マジジワる。
そしてノックと共に弟君が登場。
「失礼します。シュン・カミシノです」
はっ?
何が起こった?
何なのこの可愛い生き物は!?
「えっと…。 美穂 風見です」
いや! 私、日本人なんですけど!?
「初めまして美穂先輩。 本日は宜しくです。私はどこですか?」
名前呼びーー!
「え?」
可愛いんだけど! 辿々《たどたど》しくて可愛いんですけど!
「ん?」
「え? えっと…」
やばい! 記憶がブッ飛んだ!
「すみません。 多分、間違いです。 私は、えっと、Où voulez-vous vous asseoir? ですか?」
(どこで待機すればいいのでしょうか? の意。)
「いや。 本当、ごめんなさい。 とりあえず、ここに座ってもらえるかな?」
キャー! フランス語的な? 本場フランス語来たーー!
私の官能された一時を壊すように、新任の吉岡先生が現れた。
空気読めよな吉岡!
しかしこの子、本当に上篠の弟か? 上篠も男子から人気がある方だけど、この瞬君はヤバすぎだぞ!
こんな可愛い子が弟なんて、うらやまけしからんぞ! 上篠ちゃん。
「美穂先輩。 よくわかりませんです。 教えてもらえますか?」
は? 何? ヤッバ! 聞いてなかったっす!
てか、メッチャ私を見てね?
「わっ私が!? えっと…」
私がボーッとしている間に、吉岡が何か言ったようだ。
余計なことを!
そして突然、私の方を向き、会釈をする瞬君。
私は彼をガン見していたことに嫌悪感が出てしまい、ウンウンと何度も首を縦に振っている。
「美穂先輩。 赤い牛さんの置物みたいです。 可愛いです」
「なっ!? カッカワ!?」
私が?
てか、可愛いのは瞬君じゃー!
「ハイハイ。 上篠君、風見さんを揶揄っちゃダメよ。 それじゃ始めますね。」
試験が始まり、私は瞬君を見つめる。
これは監督補佐としての仕事だ。
ああ。
可愛い…。
ヤダァ、上を向いて考えてる。
可愛い…。
左目の所の涙ボクロが輝いて見えるんですけど!
私が瞬君を見つめていると、その向こうに座る吉岡が生温かい視線を私に向けている。
きっ気まづい…。
12時55分。 全ての教科の試験が終わった。
さあ。 ここからは瞬君と校内デートじゃ!
いやぁん。
楽しみすぎて、気絶しそうだわ!