know I rights.
3月初旬、早朝。
上篠 Noe 瞬は日本に到着した。
「あぁ。お腹がすいたですね…」
飛行機が揺れる恐怖から、日本への道中、ほぼ爆睡をしていた瞬。
そのため機内食を逃したのだった。
オロロンだね。
ゲートを抜け、とりあえず何か食べるものをと思ったが、不幸にも『東○ミルクチーズ工場』というお店を発見してしまった。
これは行くしかないです! 俺のお腹が叫んでいるです!
お店に入ると、真っ先に両眼に飛び込む『チーズパフ いちご○ルク』という名のシュー・ア・ラ・クレーム。
6個入りで1800円? 高いのか安いのかは知りませんが、これを購入。
お会計を済ませ、俺は待ち合わせ場所に向かう。
デカいキャリーを左腕に絡ませ、中腰状態で歩く俺。
それはこういう状態で歩かないと、キャリーを引きながらシュー・ア・ラ・クレームを食べることができないからである。
「ああ、美味しいです」
思わず口からこぼれる賛美の言葉。 日本最高だ! こんなに美味しいものが食べられるなんて幸せだ!
そんな俺の横を歩く人々は微笑ましく見ている。
「もしかしてノエ君?」
俺と同い年くらいの女性が話しかけてきた。
「うん」
「カワイイー! うんだって!」
「あなたはどなたですか?」
「上篠菜絵。ノエ君のお姉ちゃんだよ」
ああ。俊朗さんの娘さんですね。優しそうな人でよかった。
「瞬。こっちだ」
俊朗さんが空港の入り口あたりで手を振っている。
「おはようございまふ」
しまった! シュー・ア・ラ・クレームが口の中に…。
「あはは! 腹が減っているのか? 朝飯を作っといたから、車の中で食べろ。さあ、急ぐぞ!」
俊朗さんの言う、「急ぐぞ!」とは来日早々、高校に入るための試験を行うためです。
先ほどのお姉さんと同じ高校に行くためなのです。
そして、車に到着。自動で開くスライドドア。
「わお! ドアが開いてます!」
驚く俺。
そして運転席に座っている女性が俺に話しかける。
「初めまして瞬君。今日から私が瞬君のお母さんよ。ちゃんとお母さんって呼ばないとダメよ。」
「初めましてお母さん。今日からよろしくです。Je suis content !」
「あー。フランス語はダメだよノエ君」
「少しだけですよ? でもごめんなさい…」
「もう、そんな悲しい顔をしないで? なるべく日本語を使おうね?」
「ジェ コンプリです」
「ぷっ! もう、言ってるそばから。」
「ちょっと待ってください。えっと、調べるです」
「わかりました。だろ?」
ナビ席から俊朗さんが教えてくれた。
「それです! ジェ コンプリは《《わかりました》》です! 俊朗さんは超人です!」
「おいおい。俺のことはお父さんって呼ばないのかよ」
「えへへ…。お父さん…」
「ちょっとノエ君、可愛んだけど!」
そう言いながら、菜絵さんが俺の頭を撫でる。
恥ずかしいです…。
「そうだ、はいどうぞ。ノエ君の好みがわからないから、サンドイッチにしたんだ。私が作ったんだよ」
そう言って、菜絵さんがバッグから箱を取り出した。
パカっと蓋を開けると、真っ白いパンがたくさん入っている。
「白いです! これもパンですか?」
「え? パンだよ? フランスにもパンはあるでしょ?」
「カスクルートはバゲットです」
「カスク? 何?」
「サンドイッチの事をフランスではカスクルートっていうのよ。確か、フランスのサンドイッチはフランスパンを使って、生ハムとかを挟むのよね? 日本みたいに食パンは使わないのよ」
「へー。お母さん博識だね。」
「菜絵がサンドイッチを作っている時に、お父さんから聞いたんだけどね。瞬君がきっと驚くぞーって」
「ノエ君。ところで、そのサンドイッチはお口にあいますか?」
「え? 俺、お口、臭うの?」
「あはは! 美味しいですか? って意味だよ。もうノエ君、本っ当に可愛いんだから」
「えへへ…」
間違えると可愛いのかな?
日本人って変ですね…。
俺も日本人だけど。
車を走らせてから1時間くらいでしょうか。俺は試験を受ける学校に到着した。
ここからは俺と菜絵さんで校舎に入る。
試験を行う教室まで、菜絵さんが送ってくれるです。
そこからは試験監督を務める先生と、生徒指導委員会の代表の人が、俺を見るらしいです。
実はこの高校、一般受験は既に終了しているのです。
俺はこの高校のフランスの分校で正式な日に試験をしました。その時に合格はしましたが、クラス編成の為に日本での試験もするのです。
本当に面倒です…。
「それじゃノエ君、私はここまでしか居られないけど、頑張ってね」
「はい。頑張るです!」
「そうそう、聞き忘れた」
「何ですか?」
「私のことは何て呼ぶの?」
ん?
菜絵ちゃん?
姉さん?
「菜絵さん?」
「えー!? お姉ちゃんって呼んでよ!」
「うん。 菜絵姉さん、頑張ってきます!」
「うーん。まあいっか。はい、頑張ってね」
そうして俺は教室に入った。
うぅ。ちょっとだけ緊張するです…。