処刑された悪役令嬢は、雪山登山の夢を見る
処刑台に上ると、正面に元婚約者のランス王太子がいた。男爵令嬢エラの腰を抱いている。
「カッサーノ公爵家長女マリア、反逆罪により斬首刑に処す」
役人が宣言すると私は背中を突き飛ばされて、無様に倒れた。
悪役令嬢に転生したと気づいてから、処刑を免れるためにあらゆる努力をした。けれどどれも失敗。大魔術師に弟子入りして国内トップレベルの実力を身につけたけれど、それすらも『王族に反旗を翻す準備』と断じられてしまった。
私に残されたのは斬首と――
役人が処刑人に合図を出した。
◇◇
強い風で雪が吹雪き、視界が奪われる。
風が弱まるのを待ってから登山を再開。手も顔も凍傷にかかり酷く痛むけれど、弱音を吐いている場合じゃない。はやく頂上に行かないと――。
いいえ。
ちょっと待って。どうして私はこんなところにいるの?
再び足を止めてあたりを見回す。雪山だ。私のほかには誰もいない。
でも私は先ほどまで処刑台の上にいたはず。首に振り降ろされた剣の感触をはっきり覚えている。なにより着ているものが囚人服だし。
ならば、今のこの状況はなに?
しかもどうしてなのか、私はこの山に登頂しなければならない気がする。
そうだ。いつだったか師匠である大魔術師が
『夢占いだと雪山は困難を現す。逆に登頂に成功すればそれを克服できることを示している』と話していた。
これはきっと死後の夢なのよ。冤罪で処刑された私が、次の人生こそは幸せになるための試練の夢。違うかしら。
どのみちここで立ち止まっていても、再び死ぬだけだわ。
寒かろうが辛かろうが、登らなければ。
◇◇
吹雪の中、なんとか頂上についた。先ほどまでの荒天が嘘のように空が晴れ渡っている。
「やったわ!」
思わず声を上げると、
「よくやった!」との声が返ってきた。
「……その声は師匠?」
訊き返すと同時に、目の前に大魔術師の顔があった。男前の顔をくしゃくしゃに歪めて、泣くのをガマンしているみたいだ。
雪山にいたはずの自分が彼の仕事部屋の床に寝ていることに気づき、半身を起こす。
それを機に思い出した。
私は処刑エンドに備えて師匠に教わった、死によって発動する時戻りの魔法を自分にかけていた。ただ、それを成功させるためには自ら時を遡る必要がある。どうやらそれが雪山だったらしい。
「マリア、成功だ」と師匠。「処刑の半年前に戻れたぞ」
「では今度こそ処刑を回避します」
そして無事に生き延びられたら。その暁には師匠に告白をするのよ。