望まれて咲く
雨の季節、わたしは一気に背を伸ばす。枝いっぱいに蕾を宿し、甘い香りで道行く人を誘ってはしな垂れる。
甘い香りは、言葉は、いくらでもまき散らすことができた。だってそのように生まれたのだから、たとえその奥に猛毒が仕込まれていようとも。
不用意に近づいては甘さに酔い、美しさを称え、けれどいつしか顔を曇らせ、遠ざかってゆく。あるいはわたしの足もとに倒れ、呪詛を吐いて縮こまる。
ある日、噂を聞きつけたものがわたしを狩りにやってきた。
「かわいそうに。望んで毒を持ったわけでもあるまいに」
それはわたしを根から掘り出す。
「君にぴったりの土壌をあげる」
それは素手でわたしの花弁に触れ、優しくなで、薄く微笑んでささやいた。
第9回 毎月300字小説企画、お題は「育つ/育てる」でした。