第9話 王国御三家
「ところで、このお屋敷にはお嬢様以外の方はいらっしゃらないんですか?」
何気なく尋ねると、サナは首を振った。
「いません。この別荘……いえ、屋敷に住んでいるのは私一人です」
「でも――確か、サウザントルル家って」
王国御三家。
以前聞いたことがあったのを思い出した。
かつてナール王国を創り上げた三騎士の末裔と言われる一族で、今なお王国の政治はこの御三家によって行われている。
ヴァイスニクス家、ゼステイウ家、そして――サウザントルル家。
最も力を持つ一族がヴァイニクス家で、騎士団の指揮権を持つのもこの一族だ。
「滅ぼされたのです」
「……え?」
サナの事もなげな呟きに、僕は思わず声を上げていた。
「ですから、滅ぼされたのです。他の二つの勢力によって私のお父さまとお母さまは暗殺されました。他の親族たちも同様です。サウザントルル家で生き残っているのは現在私だけです」
「そ―――そんな。なんで?」
「現在ナール王国は戦争によって他国を侵略し領土を広げようという勢力が大多数を占めています。ヴァイスニクス家も、ゼステイウ家も。しかし私の父だけがそれに反対しました。戦争ではなく友好によって他国とのつながりを深めようとしたのです。その結果―――サウザントルル家は滅びました」
僕に抱かれたまま、サナは遠いところを見つめていた。
茫然として、僕は何も言えなかった。
サナは言葉を続ける。
「あるとき、王都にあったお屋敷に大勢の兵士たちが攻め入りました。お父さまは他国へ情報を流した裏切り者という無実の罪を着せられ、昨年処刑されました。切り落とされた首は王宮前の広間に朽ちてしまうまで晒されたのです。お母さまは食事に毒を盛られ、血を吐きながら死にました。他の親族も同じような目に遭いました。そして私だけが生き残ったのです。ヴァイスニクス家やゼステイウ家に逆らえばどうなるか、それを他の貴族たちに分からせるための見せしめとして」
「サナ……」
「いいですか、イル君。人は力を持つとおかしくなってしまいます。すべてが思い通りになると思ってしまうのです。他人だって平気で殺してしまえるようになります。ですから―――イル君は、優しいイル君でいてくださいね?」
そう言って、サナは僕の顔を見上げて微笑んだ。
その瞬間、僕は自分の運命みたいなものを自覚した。
多分僕は―――この子と出会うために生まれてきたのだろう。
「大丈夫。サナは、僕が守るから」
「……はいっ!」
サナが目を細めて笑う。
どうせ誰かも必要とされていなかった僕の生命――サナのために使おう。
そう心に誓った。