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第70話 畏れ


 シュイミはいたずらが見つかった子供のように、小さく舌を出した。


「あらら、バレちゃった? ゼステイウ家の私兵がサウザントルル家の屋敷に向かってるんだって。情報が入るのがちょっと遅くなっちゃった。一応ウチの兵を派遣するようにしてるんだけど……ごめん、相手がこんな直接的な手段を使ってくるとは思わなかったのよ」


 メイリャさんも言っていた。中途半端に手を出すと、敵はさらに苛烈な手段で我々を陥れようとするでしょうって。


 あーあ。

 こういうことか。


 理由は分からないけどよっぽど嫌われてるんだな、サウザントルル家って。


 いや――嫌われているというよりは、恐れられている、と言った方が正しいのかもしれない。


 サウザントルル家の影響で、人々が平和を求めることを恐れている。


 他人を傷つけたり殺したりすることで生きて来た人たちには、平和を求める行為が理解できないからだ。


「じゃあここでお別れですね、シュイミさん」

「え、行くの? 君でも間に合わないかもしれないよ? もし君まで死んじゃったらどうするの?」

「僕の命はサナに救われたんです。ここで行かなければ、サナのために行動し(・・・・・・・・・・)なかった自分を許せな(・・・・・・・・・・)くなる(・・・)


 幸いにも体力は回復している。

 仮にサナが殺されてしまったとしても―――せめてサナを殺した相手は僕が殺す。



※※※



 魔法で限界まで強化した身体で森と街を駆け抜けた僕は、サナの屋敷の前に群がる武装した集団を目にした。


 シュイミが言っていた、ゼステイウ家の私兵たちだろう。屋敷の門が破壊され、庭が荒らされているのが見えた。


「この……っ!」


 さらに加速する。

 全身が軋むのを感じた。


 誰がこんなことをしようと考えたのだろう。とにかくサナの元へ向かわなければ。


 兵士たちは屋敷の入口の前あたりで止まっている。


 屋敷の中へは踏み入られていないようだ。ギリギリ間に合ったかもしれない。


 既に僕は兵団のすぐ傍まで接近していた。何人かがこちらに気付き、不審な顔をした――。


「【切断(シュナイデン)】」


 すれ違いざまに兵士を数人斬り倒した。

 一撃で急所を狙った。返り血が僕の頬に掛かった。


「さっさと屋敷に突入せんか! 何をぐずぐずしている!」


 真っ白な馬の上から怒鳴っていている男がいた。


 その男は甲冑を身に纏っていたが、その全身が贅肉にまみれているのが一目で分かった。


 地面を蹴り、宙へ跳ぶ。


「この役立たずども! サウザントルルの生き残りをさっさと殺―――」


 落下の勢いを利用して、僕はそのまま馬上の男の顔を叩き潰した。

 頭蓋骨とその中身が砕け潰れる感触があった。


 力なく馬上から崩れ落ちる男の亡骸を足掛かりに僕はもう一度飛び、地面に着地した。


 背後で馬が暴れている。


 兵士たちが動揺しているのが見て取れた。


「ぜ……ゼステイウ公が戦死された!」

「退却だ、退却!」


 統率を失った兵の一群が、ばらばらと屋敷から離れていく。


 そして彼らが去っていったあと、僕の背後には踏まれてめちゃくちゃになった、頭の無い死体が転がっていた。




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