第7話 美少女令嬢、略して…。
「あ、ああ……僕を助けてくれてありがとうございます。ここまで運んでくれたのは、あなたですか?」
「馬車を呼んで運んでもらったのです。傷はお医者さんに診てもらいました。安静にしていれば治るそうですよ。それから」
「それから?」
「敬語、使わなくていいです」
「……え?」
「だから敬語、使わなくていいのです」
「でも僕はサナ……さんに助けられた立場なわけだし」
サナはうーん、と伸びをした。
寝間着が着崩れていて、細い身体のラインが丸分かりなのもお構いなしに。
「じゃあ、イル君は今日から私の執事」
「え?」
「どうしても敬語が使いたいのなら、相応の立場になってもらいます。私のことはお嬢様と呼んでください」
執事、か。
エッヂア家での毎日を思い出す。
あんな人たちに見下されて見下げられて卑下させられるくらいなら、この女の子に良いように扱われた方がよっぽどマシだ。
「……分かりました、お嬢様。何なりとお申し付けください」
僕はサナの前に膝をついた。
サナは呆気にとられたように目を丸くした。
「あ、あの……」
「何でしょう」
「冗談、ですよ?」
「いえ、僕はお嬢様に命を助けられた身ですから」
「でもでも、イル君は大怪我してるんですよ? そんな人に執事をやらせるなんて私、めちゃくちゃ悪い女じゃないですか」
「そんなことはありません。僕が前に居たところはもっと酷い人間がたくさんいました。それに比べればお嬢様は聖人―――いや天使です」
「て、天使」
ぽかんと口を開けるサナ。その頬がみるみるうちに赤くなっていった。
「僕はお嬢様のためなら命を捧げます。これは本気です」
「ほ、本気……ですか」
サナは僕をじっと見つめた。
僕もサナの瞳を見つめたまま動かなかった。
しばらくそうしていただろうか。ようやくサナが口を開いた。
「分かりました。そこまでいうのなら、イル君。あなたは今日から私の執事です。そして私を守る剣です。良いですね」
「……承知しました、お嬢様」
「そして私のことは美少女令嬢、略してジョジョと呼んでください」
「いやさすがにそんな奇妙な呼び方はできませんよ」
「……そうですか、では諦めます」
サナは少し残念そうに言った。