第67話 教えた通り
「魔法による身体強化や風魔法の応用で創り出した刃。どれも小手先の誤魔化しに過ぎん。真の力とは一撃ですべてを決着させることのできる力のことだ」
「………サナが買ってくれた服が、もうボロボロだよ」
自分の身体から立ち込める煙で咳き込みそうだ。
これ、エッヂア家に請求したら弁償してくれるのかな。
「体力だけはあるようだな。ならばもう一撃くれてやろう……!?」
剣を動かそうとしたザファーが怪訝な表情を浮かべる。
当然だ。
その剣は、僕がしっかり握ってるんだから。
剣を掴んだ左手から血が滴っている。
この痛みくらい、サナが受けた悲しみに比べれば大したことはない。
「お望み通り、一撃で決着つけてやるよ!」
右手を握り直す。
僕はザファーに向かって一歩踏み込み、その腹部めがけて拳を振り抜いた。
「ぐ……っ!」
鎧が砕け、血を吐くザファー。
最大まで強化した身体能力で放つ【粉砕】。おそらく内臓まで破壊されただろう。
それなのに――ザファーはむしろ満足そうに笑みを浮かべ、真っ赤に充血した目で僕を見た。
「さっさと……死ねよ!」
【切断】を至近距離から叩き込む。
ザファーの鎧が切り刻まれた瞬間、ザファーは剣から手を放した。
思わぬ行動に僕は動揺した――刹那、ザファーの拳が僕の腹部にめり込んでいた。
体の内部を直接殴られたような衝撃に、口から液体が零れる。
胃液かと思って吐いたそれは血だった。
「そんな小細工で、エッヂア家当主でありナール王国騎士団長のザファー・エッヂアを殺せると思っているのか!」
「ば……馬鹿にするな!」
血まみれの左手で無理やり拳を作り、ザファーの顎にぶつける。
ザファーは一瞬よろめいたが、すぐさま右拳を繰り出してきた。
体勢も整わないまま、僕はそれを蹴りで相殺する。
「いい蹴りだ! 私が教えた通りだ!」
「あんたが僕にしてくれたことなんて何もないだろ!」
「私はお前を一流の騎士にしようとした! お前に剣の才能が無かっただけだ!」
身体を捻り、今度は左足で蹴りを放つ。ザファーはその蹴りを受け止め、僕の左足を掴むとそのまま僕の身体ごと地面に叩きつけた。
「うっ……!」
上下左右も分からなくなりながら、僕は左足を振りほどくと跳ね起き、もう一度相手から距離を取った。




