第6話 目覚め
目を覚ますと、ベッドの上にいた。
視界には見知らぬ天井が広がっている。
ベッドからは甘い香りがした。
僕は身体を起こすと、周囲を見渡した。
雑然と家具が並べられた広い部屋。女性もののドレスが何枚か床に散らばっていた。
窓からは朝の光が差し込んでいる。
「…………」
動きづらさを感じて視線を下に下げると、体中に包帯が巻かれていた。
一体僕はどうしてこんなところに?
最後に覚えているのは黒ずくめの男たちとの乱闘シーン。
まさか僕――あのあと死んだのか?
オークとの戦いの直後だったし、出血多量とかで死んだかもしれない。
ということは―――ここは天国?
だとすれば、最後に見たあの女の子は天使?
とりあえずベッドから降りてみた。
やはり全身に痛みが残っている。つまり、死んだわけじゃなさそうだ。
だんだん嫌なことも思い出してきた。
確か僕は家を追放されたんだったよな。
ってことは、遅かれ早かれ路上で野垂れ死にしていたわけだ。
友達は一人もいないのに『死』だけが僕の周りに付きまとっている。厄介な【追跡者】みたいに。
勘弁してほしい。
ドアの取っ手を押す。
金具がさび付いているのか、開けるのに少し力が必要だった。
ドアの向こうには長い廊下があった。
埃の溜まったその廊下を、僕は何かに導かれるように歩いた。
廊下は広い居間につながっていた。
大きな窓と、部屋の中央にある一人用の椅子と机。
そして壁際に置かれたソファには、猫みたいに身を丸めている人影があった。
輝くような金髪と白磁のような肌。
僕に傘をくれた人―――サナだ。
近づいてみると、サナは心地よさそうに寝息を立てていた。
「うう……ん」
不意にサナが寝返りを打った。
そのせいで生地の薄い寝間着の胸元がはだけた。
「……………」
よせ、僕。
命の恩人を性的な目で見てはいけない。
華奢なタイプだと思ったけど意外と胸はあるんだ―――とかいう邪な考えを持ってはいけない。
僕は理性を振り絞って目を逸らした。
その勢いが強すぎて、首が変な方向に曲がった。
痛い。
完全に筋を痛めた。
「っ……」
一体何をやってるんだ僕は。
情けなくて涙が出て来た。
「ん……あれ、起きたのですか?」
サナが目を開ける。
澄んだ蒼い瞳が僕を見つめていた。