第55話 ヴァイスニクス家へ
「あまり良くない知らせです。ヴァイスニクス家との交渉ですが、やはり難航しているそうです」
「死刑という判決まで出してしまっているのですから、それを覆すのは簡単ではないでしょう。無理は承知の上なのです」
「そして、ヴァイスニクス家からの要求が一点。交渉の場にサナ・サウザントルルを出席させること。でなければ交渉はこれ以上進められない――とのことでした」
交渉の場にサナを出席させる?
それって敵の真っただ中にサナを送り出すようなものじゃないのか?
「ちょっと待ってください、メイリャさん。そんなことできるわけないじゃないですか。そのヴァイスニクス家っていうのは、サナの両親を殺害を計画した人たちなんでしょう?」
「ええ。しかし……いえ、力不足で申し訳ありません。平和外交派の人間だけではこれが限界のようです」
「僕はメイリャさんを責めるつもりはありませんが、今回の一連の事件、そもそもはあなたたち平和外交派の人たちがサナに会いにきたことが原因ですよね? それを相手が要求して来たからといって、サナを危険な目に遭わせるのは間違ってると思うんですけど」
「………大丈夫です。問題ないのです。私、ヴァイスニクス家との交渉に参加します」
「え」
僕は思わずサナを見た。
サナは毅然とした表情を浮かべたまま言葉を続けた。
「私の命に関することですから、私が決めるのが当然です。そもそも平和外交派が私と接触しなくても、私を目障りに思う人々はいつか似たような手口で私を殺そうとしていたでしょう。ですから―――私、ヴァイスニクス家へ行きます」
「良いんですか、お嬢様」
「もちろんです。ですがメイリャさん、その交渉の場には執事であるイル君も参加させていただきます。平和外交派の人にはそうお伝えください」
「……分かりました、サナお嬢様。すぐに文書を作成し一番速い便で送りましょう。それからこちら、先ほど届いたお荷物です。イル様宛てのようですが」
「僕?」
なんだろうと思いながら、メイリャさんから包みを受け取る。
その感触には覚えがあった。
まさかこれって……。
「あ、そうそう。イル君のお洋服なのですが、予備も含めて3着購入しているのですよ」
「さすがお嬢様、準備が良いですね」
包みを開ける。
中にはボロボロになった執事服と同じデザインの衣服が二揃い入っていた。
「さあイル君、準備を。すぐにでも出発するのです」
「はい、お嬢様」
僕は新品のジャケットを羽織りながら答えた。
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