第52話 同じレベル
※※※
屋敷に帰り着いたのは、もう日が昇った頃だった。
子供たちとロデリアさんが庭で僕たちの帰りを待っていた。
「……よく戻っていらっしゃいました、サナお嬢様」
ロデリアさんの言葉に、サナが首を振る。
「イル君とメイリャさんのお陰です。状況は二人から聞きました。それで、ヴァイスニクス家との交渉はうまくいっているのですか?」
「昨晩のうちに平和外交派の者がヴァイスニクス家に到着しております。今日中には本格的な交渉に入れるかと……ところで、そちらの方は? 王国騎士団の方だとお見受けしますが」
ロデリアさんがジャックに顔を向ける。
ジャックはメイリャさんに支えられたまま、憮然とした表情を浮かべ喋ろうとしなかったので、代わりに僕が答えた。
「あのー、コネで大隊長になったザコです。超が付くほどのマザコンで泣きながら許しを請われたので、仕方なく生かしておいてあげました。そのまま放っておくのもかわいそうだったので連れて帰って来たんです」
「イル君、子供たちの前ですからあまり品のない物言いをしてはいけません」
「……すみませんお嬢様、気をつけます」
チッ、お嬢様に庇ってもらえて良かったなマザコン。
せいぜい僕らの役に立ってもらうからな。
「とにかく、今の私たちにできるのは交渉の結果を待つだけということですね。……メイリャさん、イル君とイル君のお兄さんの手当てをお願いできますか?」
「承知いたしました。ではイル様、ジャック様、こちらへ」
「いや、僕は大丈夫です。そっちのマザーコンプレックスを克服できないザコ、略してマザザココンをよろしくお願いします」
「マザザココンって何だよ! 全然略せてねえだろッ!」
「僕に敗北した人の言葉なんて負け犬の遠吠えにしか聞こえないんですけど?」
「このクソゴミがあああああ!」
「ジャック様いけません。感情的になると傷が開きます」
「俺は大隊長だ鍛え方が違……ぐああああああっ!」
傷口を押さえながら悶絶するジャックを、メイリャさんが引きずるようにして屋敷の中に連れていく。
ははっ、ざまぁないぜ!
「イル君……」
背後でサナの声がした。
「あ、いや、別に僕はあの男のことなんてどうなろうと知ったこっちゃありませんから!
今までの鬱憤を晴らしてやろうなんて気はさらさらありませんよ!」
「その言葉、信じますからね」
「ええ。もちろんです」
争いは同じレベルの者同士でしか発生しない。
つまり僕があいつと言い争いをするというのは、僕があのマザザココンと同レベルということだ。
あくまでも僕はあいつに勝ったはずだ。僕の方が上ということだ。その僕があいつと争うなんてことはあってならないはずなんだ。肉体的にも精神的にもあいつを上回っているのならば、言い争いという行為自体発生しないはずだからだ。
さっきのは僕がわざわざ相手のレベルに合わせて会話をやってあげていただけの話だ。僕があいつと同じレベルだというのとはわけが違う。




