第49話 ギリギリの戦い
「ッ……!」
「あのクソ女に拾われて余計な自信付けちまったみてぇだけどな、ゴミはどうやったってゴミだ。それをもう一度身体に叩き込んでやるよ、クソゴミ!」
「【切断】!」
その場から飛退きながら、風魔法の刃をジャックに叩き込む。
しかしジャックは迫る刃を前に動こうとしなかった。
それどころか右足を一歩踏み込み、叫んだ。
「格の違いってやつを教えてやろうか! ―――【疾地津豪剣】!」
「!」
剣が振り下ろされる。
同時に巻き起こった衝撃波が【切断】の刃をすべて打ち消し――僕に襲い掛かった。
全身が細切れにされたような感覚と共に、僕は地面に叩きつけられる。
「てめえみたいなのはそうやって這いつくばってんのがお似合いだぜ。ほら、泣いて許しを請えよ。ジャックお兄様逆らって申し訳ありません、自分のようなゴミクズがってよお!」
身体中のあらゆる箇所に切創があった。
血が止まらない。
あの衝撃波はただの衝撃波じゃなく――細かい斬撃の集合体ってことか。
僕は滴る血を押さえながら立ち上がった。
「………あーあ、せっかくサナに買ってもらった服が一発でぐちゃぐちゃだよ」
本当にもったいない。
高額だったのに……。
いやむしろ、こんなところに着てきてしまった僕の落ち度かもしれない。
サナに会ったら最初に謝っておこう。
「誰に断って立ち上がってんだ、この生ゴミ!」
ジャックが再び僕に接近してくる。
振り下ろされた剣を片手で払いのけ、【切断】を発動する――が、ジャックは見えないはずの刃を回避するように後ろに跳んだ。
「まさか見えてるの?」
「……不可視の刃なんて、てめぇみてえなゴミクズが考えそうなことだ。俺には分かるんだよ、殺意の乗った剣筋が」
「見えてるわけじゃなくて感じるってことか」
「さっさと死ねよゴミ!」
【切断】を直撃させるのは無理か。
だったら別の方法を考えなければ。
ジャックの剣の連撃が僕を襲う。
一太刀でもまともに喰らえば致命傷だ。
まともに―――喰らえば。
蹴りと殴打で剣の軌道を逸らしながら次の手を考える。
一瞬だけでいい。チャンスが作れれば……!
そう思った瞬間、ジャックの動作が僅かに遅れた。
僕はジャックに肉薄し、最後の一撃を放とうとした。
不意にジャックの声が聞こえた。
「やっぱりてめぇはゴミクズだったな」
「!」
振り下ろされた剣が僕の肩から脇腹にかけてを切り裂いた。
その衝撃で弾き飛ばされ、僕は再び地面を転がった。
「……わざと隙を作ったのか……」
「当たり前だろ。俺は誇りあるナール王国騎士団の大隊長様だぜ。勉強になって良かったな、ゴミクズ」
ジャックは薄笑いを浮かべ、剣を振り上げた。
「あ、ええと、もし僕を殺すつもりならやめた方がいい。きっとロクなことにならない」
「いまさら命乞いか? もう遅いぜクソザコ。俺に歯向かったことをあの世で後悔するんだなァ!」
「いや本当、後悔することになると思う。……まあ、どうしてもって言うなら止めないけど」
「いい加減黙れッ! 【疾地津豪剣】――――」
叫びながら、ジャックが右足を踏み込む。
同時に、その地面が崩れた。
ジャックの表情に動揺が走る。
「一応、警告はしたんだけど」
「てめぇ、わざと隙を―――ッ!」
「当たり前だろ」
地面を蹴る。
動きが止まったジャックに再度接近する。
ジャックは地面に足を取られ動けない。
―――今度は外さない。
「【粉砕】」
僕の拳がジャックの腹部にめり込んだ。
その身体が宙を舞い、そして地面に落ちる。
「ぐ……ア……」
敵が足を踏み込むだろう位置の地面をあらかじめ【切断】で掘り、崩れやすいようにしておいた。
案の定、相手はそこを踏み抜いてくれたというわけだ。
あの衝撃波を飛ばす技でとどめを刺しにくるだろうとは思っていたけれど、まあ、その辺は賭けだ。
いやあ、どっちが勝ってもおかしくないギリギリの戦いだった。




