第48話 衝突
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「敵襲だ!」
「急げ、敵は何人いるか分からないぞ!」
「見えない刃に気を付けろ……ぐわっ⁉」
野営地は一瞬で地獄絵図に変わった。
僕が特に何をしたというわけじゃない。
【切断】を無差別に、野営地全体に向けて発射しただけだ。
もちろんサナがいるだろうテントは除いて。
「【着火】」
周囲に火を放つ―――かまどに火を入れるように。
僕の仕事はできるだけ騒ぎを大きくすること。
執事として最大限の成果を上げて見せよう。
僕は右手でネクタイを緩めた。
炎を掻き分けるようにして騎士が現れ、僕に剣を振り下ろす。
僕は上体を逸らして交わし、拳を握る。
「【粉砕】」
「ぐ……っ!」
手ごたえがあった。
鎧ごと、騎士の腹部を粉砕した。
なんて呆気ない。これが王国の騎士団なのだろうか。
僕にとって騎士は――鎧に身を包んだ集団は恐怖の対象だった。
あの刃が僕に向けられたとき、それは死ぬときだと思っていた。
それが今は―――。
「!」
鋭い気配を感じ、僕は後ろに跳んだ。
眼前を衝撃波のようなものが掠めていき、それはそのまま野営地の一角を破壊した。
「………クソゴミがァ! てめぇ、何しに来やがったァ!」
剣を構える長身の男。
エッヂア家長男にして騎士団大隊長、ジャックだ。
炎の照り返しを受けながら、僕を睨みつけている。
「何って……僕がわざわざあんたに会いに来たとでも思ってるの? サナを取り返しに来たに決まってるじゃないか。言わなくても分かって欲しいな」
「自分で何やってんのか分かってんのか? 国家に対する反逆だぞ、これは!」
「じゃあ止めてみなよ。あんた、騎士団なんだろ?」
「年上には敬語を使えって教えてやったはずだがなァ、クソゴミ!」
ジャックは剣を構え直し、こちらへ突っ込んできた。
さすが史上最年少で騎士団の大隊長になっただけのことはある。人間離れした速度だ。
「【生活魔法】――【付与】」
振り下ろされた剣が僕の肩を掠めていく。
その瞬間、ジャックの顔面がガラ空きになった。
拳が動いていた。
「―――だからてめーはゴミなんだよッ!」
ジャックの剣先が翻る。
誘われた――!
出しかけた右手を引っ込めて、代わりに左足で蹴りを繰り出す。
剣の峰の部分と僕の足が衝突し、全身が軋んだ。




