第47話 サイコ執事
「ロデリア様の作戦を聞いていなかったのですか? 私はイル様のサポート役です」
「え……メイリャさん、戦えるんですか?」
「愚問ですね。孤児院の経営者でもあり、孤児院の子供たちすべての母代わりでもあり、またある時は凄腕の暗殺者でもある。それが私です」
「最後のは嘘じゃなかったんですか? ……あれ、この質問二回目でしたっけ?」
「ご想像にお任せします。とはいえ、戦うメイドさんというのはありがちなキャラ付けですよね。私個人の意見ですが」
「そのスカートの中には暗器がいっぱい――とか?」
「確かめて見ますか?」
「え……遠慮しときます」
興味はあるけど。
絵面がちょっとアレになりそうだし。
「そうですか……」
なんで残念そうなんだ……⁉
捲って欲しかったのか、スカート⁉
やはり分からないタイプの人だ、この人……!
「とにかく役割をもう一度確認しましょうか。僕が囮役でメイリャさんがサナの奪還係。それでいいんですね」
「ええ。恐らくサナお嬢様はあちらのテントに囚われていると思います」
メイリャさんが野営地の一番奥のテントを指さす。
「どうしてそう思うんです?」
「サナお嬢様の匂いがするからです」
「……マジすか」
「いえ嘘です。あのテントだけ警備が厳重だからです」
よく見ると、確かに奥のテントにだけ見張りの兵士がついていた。
「じゃあ、あの付近では戦わない方がいいですね」
「ええ。では作戦開始の前にコードネームを決めておきましょうか」
「コードネーム?」
「イル様は……そうですね。サイコ執事とかどうでしょう」
「誰がサイコですか。僕は心優しい人格者ですよ」
「でも、子供には好かれないですよね」
「なぜでしょうね……金魚のフンみたいだなとか思ってるのがバレてるんですかね」
「そんなこと思ってたんですか……。ちなみに私のコードネームは戦闘メイドです」
「大体、コードネームなんか決めてる暇あるんですか。一刻も早くお嬢様を救出しなきゃいけないでしょ。遊んでる場合じゃないですよ」
「言葉を返すようで申し訳ありませんが、今から騎士団相手に血で血を洗う戦いを繰り広げるというのに、タキシード姿というのはどうなんですか? あくまで私個人の意見ですが」
う。
た、確かに。
相手は鎧で武装している集団なのに……。
「いや、この服にはお嬢様の想いが詰まってるんです。人の思いの力の不思議パワーで奇跡を起こしてみせますよ。っていうかメイリャさんだってメイド服じゃないですか」
「メイド服はメイドの正装です。サナお嬢様の奪還という仕事に対し失礼でない恰好をしているまでです」
なるほど。
一理あるかも。
「では、まあ、とりあえず行きますか。戦闘メイドさん」
「ええ、行きましょう。サイコ執事」
かくして戦闘メイドとサイコ執事の二人は騎士団の野営地へ向けて、一歩踏み出したのだった―――。
って。
なんだよサイコ執事って。
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