第44話 我々の責任
メイリャさんは珍しく戸惑ったような表情を浮かべ、それから少し間を置いて口を開けた。
「――分かりました。今回のサナお嬢様の件、我々の責任です。私個人の意見ですが」
「……我々?」
「そうです―――我々、平和外交派が安易にサナお嬢様へ接近したことが、今回の事件を引き起こしたと考えています」
平和外交派……⁉
なんでその言葉がメイリャさんの口から出てくるんだ?
「どういう……あなたは一体何者なんですか、メイリャさん?」
「平和外交派を支援する団体はいくつか存在します。私はそれら団体の情報伝達係を担当している人間です」
「な……じゃあ、サナはずっとあなたたち平和外交派に監視されていたってことですか?」
「監視ではなく保護です。サナお嬢様のお父上が亡くなったときから我々はずっと彼女を見守り続けていました。あなたが我々を敵とみなす勢力からお嬢様を守ってくださったことも知っています」
僕とサナが出会ったあのときのことか。
そんなことまで知っていたのか……。
「だとしたら、孤児院の経営というのもサナに近づくための?」
「いえ、それは違います。私はそちらが本職で、副業的に平和外交派の支援を行っているだけです。サナお嬢様が私の孤児院を支援してくださったのは偶然にすぎません」
「……とにかく、僕はサナを助けに行きます。協力してくれますね?」
メイリャさんが頷く。
「当然です。しかし今回の件、騎士団まで動いているとなれば、相応の権力を持った人間が糸を引いていると考えられます」
「権力を持った人間たちが、本気でサウザントルル家を潰すつもりってことですか?」
「そうです。私やイル様だけで解決できる問題ではありません。仮にイル様がサナお嬢様を救出できたとしても、敵はさらに苛烈な手段で我々を陥れようとするでしょう」
「じゃあどうすれば良いんですか?」
「平和外交派のすべての勢力を持って事態に対応する必要があります。―――既に、応援は呼んでいます」
タイミングよく玄関の呼び鈴が鳴った。
「……一体どなたが?」
「イル様もご存じの方のはずですよ。私個人の意見ですが」
メイリャさんに続いて玄関へ向かい、戸を開けると、確かに僕の知っている人だった。
「ロデリアさん……!」
軽装のドレスに身を包んだロデリアさんは、僕を見るなり深々と頭を下げた。
「この度は本当に申し訳ありません。サナ様をお守りできなかったのは我々の力不足です」
「頭を上げてください、ロデリアさん。今はサナを助けだすことを考えましょう。どうすればサナの死刑を止められますか?」
「……事態は刻一刻と悪化しています。私の得た情報では、本人不在の状態で略式の裁判が行われ、既にサナ様の死刑が確定したと」
「そ――そんな! どうしてですか⁉」
「イルさんもお判りでしょう。理由など何でもよく、ただサナ様を消すことが出来さえすれば良いのです」
僕は奥歯を噛みしめた。
サナの命を理不尽に奪おうとしている人たちの存在を許せなかった。




