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第43話 私の執事へ、愛をこめて



 死にたい。

 どうすれば良いのか分からない。


 僕はサナの部屋に閉じこもり、内側から扉に鍵を掛けた。

 そして部屋の隅で膝を抱えしゃがみ込んだ。

 なんでサナが連れていかれてしまったんだろう。


 僕が弱かったからだろうか。


 サナの命令を無視してあいつらをみんな殺してしまえば良かったんだろうか。


 どうしてサナが平和外交派に加担したことになっているんだろう。


 サナはむしろ、ロデリアさんを追い払ったくらいなのに。

 それとも本当は理由なんてどうでもよくて、この国の偉い誰かがサナを殺したいだけなのか……。


 もう何が何なのか分からない。


 ただ一つ確かなのはこの屋敷のどこにもサナはいなくて、恐らく帰ってくることもないだろうということだ。


 僕はどうするべきだったんだろう。

 それを教えてくれる人はこの部屋にはいない。


 ジャックに殴られた跡が規則的に痛む。

 床に一本、長い金色の髪の毛が落ちていた。

 僕はそれを拾い上げて窓から差す日に翳した。

 太陽の光を受け、金髪はきらきらと輝いて見えた。


 このまま座っていたらいつか死ねるだろうか。

 太ももの辺りにサナの体温を感じた―――もちろん気のせいだ。

 僕が何か悪いことをしたんだろうか。ようやく僕のことを認めてくれる人と出会えたのに、どうして奪われなければならないのだろうか。

 奪うのなら、なぜ与えたのか。


 ―――いや。

 どうせこのまま死ぬのなら、サナを助け出してから死のう。

 ゼステイウ家とかヴァイスニクス家とかいうサナを殺そうとしている人たちもみんな殺して、僕も死のう。


 僕は立ち上がった。

 そのとき、部屋のドアがノックされた。


「イル様、入ってもよろしいでしょうか」


 メイリャさんの声だ。


「……何かありましたか?」


「イル様にお届け物です。どうやらお洋服のようですが」

「洋服……?」


 なんだろう、と一瞬考えて思い出した。

 サナが僕のために注文してくれた執事服。確か、屋敷まで届けてくれるって話になっていたはずだ。


 僕はドアのカギを開けた。

 メイリャさんが荷物の包みを抱えて立っていた。


「お間違いありませんか?」

「ええ、届けてもらうようお願いしていたんです」


 とはいえ、タイミングが悪いよな。

 僕は今から人をたくさん殺しに行くつもりなのに、余計な手間を取らせないで欲しい。

 メイリャさんから荷物を受け取り、その包みを解く。


 黒を基調としたフォーマルなタキシード。シャツやネクタイ等もセットになっている。


 僕は上着を手に取った。今まで触ったことのないような質感だ。よほど上等な生地を使っているのだろう。


 ふと、その裏地が気になった。

 何気なく確認してみると、目立たない位置に刺繍が施してるのを見つけた。

 淡い桃色でデザインされたそれはよく見ると一つの文章で、こう記されていた。


私の(To my)執事へ(butler)愛をこめて(with love)


 これは……サナが?

 いつの間に?

 その瞬間、不意にサナの言葉が僕の脳裏に蘇った


 ――――『あなたは私を助けようとしてくれた。その優しさを持ったあなたが傷つくのはイヤなのです』。


「分かったよ、サナ。僕、死ぬのはやめとく」

「………イル様?」


 メイリャさんが僕の顔を見る。


「お願いがあります。僕、サナを助けに行きたいんです。……メイリャさん、何かいい考えはありませんか?」



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