第41話 死刑
「お前、とっくに死んだものだと思ってたぜ。まだ生きてたのかよ、生ゴミ」
「……っ」
胸の奥に嫌な刺激が走る。
手足が震えてうまく動かせない。
エッヂア家の屋敷でジャックから受けた暴行の傷跡が、とっくに癒えているにもかかわらず痛む。
「正直驚いたが、お前みたいなゴミはウチの屋敷よりクズ女のボロ屋の方がお似合いかもしれねえな。再就職おめでとう、生ゴミ君」
わざとらしく拍手するジャック。
が、彼は突然拍手を止めた。
なぜだろうと不思議に思ったとき、僕がジャックの襟元を掴んでいるのに気が付いた。
ジャックが口元を歪めるように笑う。
「おい、この手は何のつもりだ、ゴミクズ」
「クズ女って誰のことだよ」
「サウザントルルのクズ女に決まってンだろ」
「………訂正しろ」
「あ? 何をだ?」
「サナをクズ女と呼んだことだ。僕を何と呼ぼうが構わないけど、サナを侮辱するのは許せない」
「許せない? お前程度が俺をどう許さないっつーんだよッ!」
ジャックが右手を僕に振り下ろす。
僕はそれを―――片手で受け止めた。
ジャックが眉を顰める。
「もう一度言う。サナを侮辱したことを訂正し、謝れ」
「……お前、サウザントルルのガキに随分いい思いさせてもらったらしいなぁ? あのアバズレに筆でもおろしてもらったかァ?」
「―――ッ!」
反射的に右手を握りしめ―――その拳をジャックの顔面に叩き込んでいた。
ジャックの身体が吹き飛び、地面を転がる。
「くっ……調子に乗りやがって、生ゴミの分際で!」
鼻から零れる血を押さえながら立ち上がろうとするジャックの胸元を踏みつける。
咳き込むジャックに、僕は言う。
「悪かったな、まだ童貞だよ」
「この……クソゴミがぁぁ……ッ!」
そのとき、子供たちの悲鳴が聞こえた。
振り向くと、鎧を着た兵士たちがサナの腕を引きどこかへ連れて行こうとしているところだった。
「お前ら……!」
サナのところへ向かおうとした瞬間、背中に強い衝撃を受けた。
思わず前のめりになる。
後ろを見ると、立ち上がったジャックが剣を抜こうとしていた。
「これ以上抵抗してみろ、クソゴミ。お前もあのクズ女と同罪だぞ」
「どういう意味だ」
「俺たちはクズ女を法廷まで連行するために来たんだ。サナ・サウザントルルには敵対国に我が国の情報を漏洩させた疑いがある」
「サナが……? そんなの冤罪に決まってる!」
「そんなのは法廷で裁判を受ければ分かることだろうが。ま、平和外交派に加担した時点で死刑は決まっているんだろうけどな」
平和外交派。
死刑。
つまり――サナを合法的に殺害するための裁判ということか。




