第40話 見たくもない人間
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「けっこういい感じなのです。初めてにしては上出来だと思いませんか?」
麦わら帽子に動きやすいエプロン状のワンピースを着たサナが立ち上がり、両手を土だらけにしながら言う。
その周囲には野菜の苗が植わっていた。
「もう少し温かくなる頃には収穫できますよ、お嬢様」
「待ち遠しいのです。ちゃんとお世話をしてあげなきゃ」
緑色で溢れた菜園を見つめながら、サナは額の汗を拭う。
そんなサナに、近くで泥遊びをしていた子供たちが駆け寄って来る。
「サナお姉ちゃん、この葉っぱなあに?」
「これはお野菜なのですよ。食べられるのはまだ先なので、それまでみんなでお水を上げたり、愛情をかけてお世話をしてあげましょう。みなさん、じょうろにお水を汲んできてくださいますか?」
「はーい!」
子供たちは元気よく返事をして、井戸の方へ走っていった。
……水撒きくらいなら僕が魔法で出してあげても良かったんだけど、まあ、なんでも魔法任せにしちゃうのも良くないか。
「サナお嬢様、イル様、お茶の準備が出来ました。ご休憩なさってはいかがですか?」
いつの間にかメイリャさんが僕らの背後に立っていた。
ほんと気配無いよな、この人。
「ありがとうメイリャさん。子供たちと一緒に水をやり終わったらそうするのです」
サナが微笑みながら答える。
子供たちがこの屋敷に来てから数日が経った。
相変わらずサナは生き生きと子供たちの相手をしているし、家のことはメイリャさんが手伝ってくれるし、案外穏やかな毎日を過ごしていた。
相変わらず子供たちは僕を敬遠しているようなのだけれど……。
一体何がいけないんだ? 僕に愛想がないからか?
別に僕も子供が好きってわけじゃないから、敬遠されてるくらいでちょうどいいと言えばちょうどいいんだけどね……と、哀しい言い訳をしてみる。
「お嬢様、子供たちが戻ってくる間に僕は花壇の方をやっておきますね」
「あら、そちらは休憩してからと思っていたのですが」
「でしたら、花の苗の準備をしておきます。すぐに取り掛かれるように」
「なるほど。ありがとう、イル君。お任せするのです」
「ええ。任せてください」
サナに背を向け、倉庫の方へ向かう。
先日街へ行ったときに花や野菜の苗を買って、御者のおじいさんと一緒に運び入れてそのままにしてあるからだ。
倉庫から花の苗を一抱え、花壇の方へ運ぶ。
あとは花壇を少し耕しておけば大丈夫だろう。
さて、サナたちが水やりを終える前にやってしまうとしよう。
「【生活魔法】――【付与】」
ついでに持ってきた鍬を構え、一気に花壇を耕してしまう。
―――よし、こんなものだろう。
試しにいくつか花を植えてみようか。
苗を一株、花壇の端に―――悪くない。
これならサナも喜んでくれるだろう。僕がそんなことを考えた瞬間―――何者かによって植えたばかりの花が踏みつぶされた。
咄嗟に顔を上げると、見覚えのある――もう二度と見たくもないと思っていた人間が居た。
「よお、可愛い弟」
「ジャック―――兄上……!?」
エッヂア家の家紋が刻まれた軽装の鎧に身を包む長身の男。
なんでこいつがこんなところに……!?




