第39話 誇れること
そのうち何人かは僕の方を指さし何かを言い合っていた――かと思えば、こちらに駆け寄って来た。
「なあ、君があの火事を止めてくれたんだろう?」
煤で顔を黒くした男が僕に言う。
「ああ……まあ、そうですね」
「すごいじゃないか! 君は街の英雄だ! 皆に代わって俺たちがお礼を言うよ!」
「助かった! これ以上広がると手が付けられないところだったんだ。ありがとう」
さっきまで消火活動をしていた男たちは口々に僕に感謝の言葉を告げ、そして勝手に僕と握手したりなんかして、そしてどこかへ行ってしまった。
一体なんなんだ、あの人たちは……。
「あなたは凄いことをしたのですよ、イル君。もっと誇っていいのです」
「……まあ、悪い気はしませんけど」
「どうしたのですか? 何か不満なことでも?」
「いや……ああいう知らない人たちが僕に感謝してくれるよりも、お嬢様一人にありがとうと言われた方がよっぽど嬉しいなと思って……」
「む……常々思いますが、イル君は私のことを好きすぎませんか?」
「それはお互い様な気もしますけど」
「異論はありません。さ、イル君。手を」
サナが差し出してくれた手を握り、僕は立ち上がった。
「行きましょうか、お嬢様」
「ええ。帰りましょう、私たちの屋敷へ」
※
というわけで、僕らは屋敷まで戻って来た。
随分久しぶりに戻って来たように感じる。
洋服の採寸からフェンリルとの戦闘、ラオーテの街の消火……。
孤児院はサウザントルル家からの出資で立て直すらしい。
それ以外にも、今回の火災でケガをした人たちや街の復興へ支援としてかなりの金額を寄付するのだという。
すごいな、金持ち。
いや……サナの場合は事情が事情だから、あまりそういう感想を持つのは良くないかもしれない。
でもやっぱり、素直にすげえよな。
ちなみに僕は今、夕食の準備をしていた。
巨大な平鍋に刻んだ野菜と肉の燻製を入れて火を通し、調味料で味を調えていく。
これだけ大きな鍋なのだから、サナと僕の分を作るだけじゃない。今回は十数人分をいっぺんに作ってしまうつもりだ。
「イル様、テーブルの準備が終わりました」
そう言って台所に姿を見せたのはメイリャさんだった。
「ありがとうございます。では、次にお皿の準備をお願いできますか?」
「承知いたしました」
と、皿の準備に取り掛かるメイリャさん。
長らく使われていなかった食堂スペースからは子供たちの声がした。
孤児院が再建されるまでの間、この屋敷で子供たちを預かることにしたからだ。
まあ―――エッヂア家にいた頃にむさ苦しい門下生たちの世話をしていたことを思えば、今度は子供相手だ。まだ可愛げがある。
「イル君、何か私もお手伝いしましょうか?」
サナが顔を覗かせる。
その両手は子供たちにしっかりと握られていた。よほど懐かれているらしい。
「大丈夫ですよお嬢様、メイリャさんが手伝ってくれていますから」
「そうですか? でも、私も何かしたいのです」
「でしたら、子供たちに席へつくよう言っていただけますか? もうすぐ食事の準備が終わりますから」
「はい! ほらみんな、行きますよ。イル君とメイリャさんがおいしいごはんを作ってくださいますからね」
子供たちの手を引きながら、サナが食堂の方へ歩いて行く。
気のせいかもしれないけれど、子供たちと一緒にいるサラはいつもより明るいように感じる。
子供から元気をもらっている的なことなのか、それとも―――暗いところを見せないようにわざとそう振舞っているのか。
「イル様、お皿の準備も終了いたしました」
「ありがとうございます。じゃあ、ぱぱっと終わらせちゃいましょうか」
どちらにしても、サナが元気ならそれでいいか。
僕は炎魔法でかまどの火を強め、一気に鍋の温度を上げた。
※※※
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