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第37話 炎上


「あんなこと―――って、なんですか?」

「わ、私に言わせるのですか」

「いやちょっと心当たりがなくて」


 サナが頬を膨らませ僕を睨む。


「私のこと、ぎゅってしたじゃないですかっ!」

「ぎゅ……ですか」


 鶏の首を絞めるみたいなものか?

 皮をはいで血抜きして……執事たちからよくやらされたなあ。


 僕がそんなことを考えていると、サナの頬はますます膨らんでいった。


「もうっ! 分からないのですか⁉ 分からないのなら、こうしてあげます!」


 と、サナが僕の右腕に両手を絡めてきた。

 そしてそのまま体を僕に摺り寄せてくる。


 サナの胸の辺りが僕の腕に当たって――柔らかっ―――いや何を考えてるんだ僕。煩悩を捨て去れッ!


「お、お嬢様、何を?」

「どうですかっ! どきどきしませんかっ⁉」


 どきどきしますけど!

 色んな意味で!

 しかし一体これに何の意味が―――あっ。

 思い出した。

 確かに僕、さっき戦闘中にサナをこんな感じで片手で抱き寄せて……。


「待ってくださいお嬢様、さっきのはですね、戦闘中の咄嗟の判断で仕方なく、お嬢様が一番安全なようにと……」

「理由なんてどーでもいいのです。とにかく、私のどきどきが収まるまでイル君にはこうしていてもらいますからね!」


 こ……困った。

 しかし、お嬢様の命令ならば仕方ない。

 ジャケット越しに伝わる弾力に気付かないふりをしながら、僕はサナに腕を掴まれたたまま帰路についた。



※※※



「……なにやら騒がしいのです」

「そうですね、何でしょう?」

「なんなのでしょうね?」


 森を抜ける直前辺りから、人の怒号らしきものが聞こえていた。

 ラオーテの街に近づくにつれ、その騒音は大きくなっていった。

 嫌な予感がした。


「あの、お嬢様……胸騒ぎがするんですけど」

「奇遇ですね。私もどきどきが強くなってきたのです」


 サナが僕から身体を離す。

 草原の向こう、ラオーテの街の一角に火の手が上がっているのが見えた。


「まさか、あの辺りは……」

「急ぎましょう、イル君」

「分かりました。任せてください」


 サナを抱え上げた僕は、【付与シュタルケン】を発動し、全速力でラオーテの街へ駆けた。

 騒音は更に近づいてくる。

 街へ入ると、大勢の人々が火の手を食い止めようと消火活動を行っていた。


 炎の熱気が僕の頬を撫でる。


「ひどい火災なのです……」


 サナが不安そうに僕の上着の胸の辺りを握った。

 それなりに大規模な火災だ。一体どこがその中心なのか……。


 最も人が集まっているところで立ち止まる。


 それは路地裏の、街の中心から少し離れたところにある建物。


 つい朝まで僕らが滞在していた―――イストマロン孤児院。



 その建物は全体が炎に包まれ、煌々と燃え上がっていた。




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