第36話 意図的な襲撃
「……その通りです。本当に魔法のことがお分かりなんですね」
僕の言葉に、サナが困ったように笑う。
「自分が使うとなると全くダメなのですけどね。ですが、確かにこのフェンリルたちは何者かによって操られる魔法がかけられています。つまり、フェンリルたちを操る別の何者かが存在するということです」
「では、あの孤児院は意図的に襲撃されたってことですか? 一体誰がそんなことを?」
「そこまでは分かりません。しかし、黒幕がいるとなればここでフェンリルたちを殺してしまっても根本的な解決にはならないでしょう。ここは一度孤児院へ戻って状況を整理すべきだと思うのです。彼らも戦意は失っているようですし」
周囲を見ると、フェンリルたちは次々に森の中へ逃げていくところだった。
僕が押さえつけていたフェンリルも、手を放すとすぐに森の中へと駆けて行った。
「……あの群れはまた孤児院を襲ってくるでしょうか?」
「それほど強力な魔法ではなかったようです。彼らの傷が癒えるまでは襲撃されることは無いと思うのです」
「では、帰りますか」
「そうしましょう」
まるで何も起こらなかったかのように静まりかえった森の中を、僕らは来た道を辿るようにして帰った。
「イル君、怪我はありませんでしたか?」
「いえ、全然。思っていたより大したことはありませんでしたね」
「それは何よりです。でも……ひょっとすると、そう設定されていたのかもしれないのです」
「設定?」
「フェンリルたちを操る存在が、必要のない殺生を行わないようにコントロールしていた――可能性ってあると思いませんか?」
なるほど。
相手の狙いが孤児院を攻撃することなら、それ以外の被害を出すのは確かに無益なことだ。
「あり得ない話じゃなさそうです」
「でしょう?」
サナは悩まし気に目を細める。
長い睫毛が揺れた。
「……でも、一応は解決ですよね、お嬢様。これでしばらく孤児院は無事です。柵を修繕する時間は稼げたんじゃないですか?」
「いえ、そのことはもう大丈夫なのですが……どきどきが止まらなくて」
「どきどき……ですか」
「きゅ、急にあんなことされたの、初めてでしたから……」
よく見ると、サナの頬は微かに上気していた。
え?
僕、何かしたっけ?




