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第31話 リアルな話


「ということなのでメイリャさん、私たちに任せて欲しいのです。あなたは念のため、もう一度街の行政機関に掛け合ってみてください」

「そうですか。分かりました。くれぐれもお気をつけて、サナお嬢様」

「大丈夫なのです。私にはイル君がついていますから。ではそろそろ失礼しましょう。フェンリルのことはまた報告しにまいりますね、メイリャさん」


 そう言ってサナが歩き始める。

 僕はその後に続こうとして―――背後の殺気に気付き、右手を振るった。

 右手はちょうど殺気の主が放った手刀とぶつかり、鈍い音を立てた。


「………なるほど、ただ目つきが悪い人というわけではなさそうですね。私個人の意見ですが」

「暗殺者っていうのは嘘じゃなかったんですか―――いや、暗殺者にしては殺気が強すぎますね」

「それはあなたの想像に任せます。一つだけお願いしたいのは、サナお嬢様は我々にとって必要な方ですから必ずお守りしてください……ということです」

「サナは死なせません。約束ですから」

「信じますよ」


 メイリャさんは鋭い目をしたままそう言った。

 ここ、本当に孤児院なんだろうか。

 さては殺し屋の育成施設とかじゃないだろうな。

 だったらもう少しこの子たちに優しくしておくけど。将来僕を殺しに来ないように。


「イル君、何かあったのですか?」


 気づけば、サナはもう孤児院の門のところにいた。

 僕は慌てて追いかけた。


「すみませんお嬢様、お待たせしました。今日はこのまま屋敷にお戻りですか?」

「フェンリルの件を引き受けてしまいましたので、少しの間は街に滞在するのが良さそうだと思いません?」

「それはそうですが……馬車を待たせたままですよ」

「大丈夫です。馬のおじい様は昔から私に甘いのですから、事情を話せば分かってくださいます。とにかくイル君、ひとまず宿をとりましょう。それからこの辺りの地図と、フェンリルの目撃情報も集めないと」


 目を輝かせるサナ。


「……お嬢様、もしかして楽しんでませんか?」


 僕が訊くと、サナは急に真顔になり、


「ラオーテの街の行政機関は動かないと思うのです」

「え?」

「たかが孤児院です。身寄りのない子供が犠牲になっても損害は出ません。恐らくもっと大きな被害が出ない限り行政機関は動かないでしょう。でも、そうなっては遅いのです。だから多少の危険をおかしても手は打っておかねば」

「は……はあ」


 いきなりリアルな話だな……。

 一瞬ついて行けなかった。


「とはいえ、魔物討伐のために森に冒険へ出かけるのです。物語みたいでわくわくしませんか――と、無理やりテンションを上げているのです! イル君もハイテンションでお願いします!」

「うおおおおおお燃えて来たぜぇぇぇぇ!」

「その意気ですイル君! さっそく宿を探しに行きましょう!」

「うおおおおおおっっ‼」


 ……なんだこれ。


 僕の人生、一体どこへゆかれるのですか?



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