第29話 笑顔が怖い
「お久しぶりでございますね、メイリャさん」
子供たちと話していたサナが立ち上がり、こちらに歩み寄る。
「いつも多額のご支援をありがとうございます、サナお嬢様」
「……どうしました? メイリャさん、顔色が優れないようですけど」
「え。お嬢様、分かるんですか」
「何を言ってるんですかイル君。メイリャさんはけっこう顔に出るタイプなのですよ」
マジか……。
僕には全然分からないけど、修業が足りないのかもしれない。コミュニケーション方面の。
「その洞察力には感服いたします、サナお嬢様。不躾なお願いかもしれませんが、まずは見ていただけますか」
そう言ってメイリャさんは歩き出した。
僕らがそれに続くと、子供たちも後からぞろぞろとついて来た。
「……………」
子供か。
金魚のフンのような彼らを見ながら、僕は想いを馳せる。
僕にもこの子たちくらいの時代があったよな。
ひたすら才能がないと言われ続けた時期で、いい思い出なんて一個もないけど。
ふと気づけば、僕のすぐ後ろを歩いていた女の子が怯えたような表情を浮かべていた。
「お……お兄ちゃん、怖い……」
「え、ああ……ごめん。悪気は全くなかったんだけど」
今にも泣きだしそうなその女の子を、サナが軽々と抱き上げた。
「大丈夫ですよ、このお兄さんは本当はとっても優しいのです。今はきっと昔の嫌なことを思い出していただけなのですよ」
「お兄ちゃん、優しいの?」
「ええ。イル君は私の命の恩人なのです。それにとっても強いのですよ」
「へえー、そうなんだね、お兄ちゃん」
女の子が疑いを知らない澄んだ瞳を僕に向ける。
僕は無理やり口角を上げて答えた。
「ああ、そうだよ」
その瞬間、女の子の表情が固まった。
「お兄ちゃん、笑った顔、怖い……」
くっ。
愛想のない奴とは言われ慣れてるけど――子供に言われるとさすがに傷つく。
どうせ僕を鍛えるなら表情筋も鍛えておいてくれ、父親よ。
「ここです、皆さま方」
メイリャさんが立ち止まったのは、孤児院の裏手を囲う柵の前だった。
「これは……」
僕は思わず呟いた。
柵の一部に千切られたような跡がある。
まるで力任せに引っ張ったように―――金属製の、丈夫な柵なのに。




