第28話 イストマロン孤児院
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「またのお越しをお待ちしております」
店員さんに見送られながら、僕らは服屋を後にした。
「いいお買い物が出来ましたね、イル君!」
サナが僕の隣で満面の笑みを浮かべる。
「ええ、ありがとうございます、お嬢様……」
生地からデザインまですべて特注品。
請求額はとんでもないことになっているだろう。
さらに屋敷まで配送してくれるサービス付き。
お金持ち、恐るべし。
「そうだ、寄らなければならないところがあるのです。他のお買い物をする前に済ませても良いですか?」
「構いませんが、どちらでしょう?」
「孤児院です」
「孤児院?」
「ついてきてください、イル君」
サナが淀みない足取りで歩き出す。
その後に続いて歩いて行くと、徐々に大通りから外れ裏道の方へ入っていった。
「お嬢様、本当にこんなところに孤児院が……?」
「あるのですよ。ほら」
サナは足を止めた。
僕らの目の前には、古びた洋館が立っていた。
周囲は高い柵で囲まれていて、広い庭と小さな畑があった。
門のところでは子供がひとりで遊んでいて、僕らに気付くとこちらに駆け寄って来た。
「サナお姉ちゃん!」
青いワンピースを着た少女がサナの手を握る。
「久しぶりですね、ハウィン」
「また遊びに来てくれたの?」
「ええ。あなたたちが元気にしているか見に来たのです」
いつの間にか周囲には子供たちが集まっていて、サナを取り囲んでいた。
サナは屈み、子供たち一人ひとりの話を聞いてあげていた。
「お嬢様、これは一体……?」
僕が訊くと、サナはこちらを振り向いた。
「このイストマロン孤児院は、私が寄付を行っている孤児院の一つなのです」
「寄付を?」
「サウザントルル家は取り潰されましたが、財産は残ったのです。私一人では使いきれないほどのね。ですから、せめて有意義に使いたいと思い孤児院に寄付をしているのです」
なるほど、そういうことだったのか。
よく見ると孤児院の建物には、あちこちに修復した跡があった。
ということは、あの跡は――。
「……サナお嬢様のお陰で、建物を修理することができました」
「……あなた誰ですか」
「説明して欲しそうだったのでしてあげただけです。私個人の意見ですが」
「……質問に答えてもらってませんけど」
いつの間にか僕の隣には、メイド服を着た女の人が立っていた。
「私はメイリャ。このイストマロン孤児院の管理者です」
「管理者……ですか」
「孤児院の経営者でもあり、孤児院の子供たちすべての母代わりでもあり、またある時は凄腕の暗殺者でもある」
「さすがに最後のは嘘ですよね?」
「ええ、最後のは嘘ですけど」
「…………」
初めて会うタイプの人だ……。
僕がしげしげと顔を眺めていると、メイリャと名乗った女の人は表情を崩さないまま両手で顔を覆った。
「そんなに見つめられると照れます」
「いや……変わった人だなと思って」
「褒められても照れます」
「褒めては――ないです」
「ああ、そうですか……」
今度は微かだが、表情に失望の色が浮かんだ。
なんなんだこの人は……⁉




