第24話 当たり前
「では、お母さまは?」
「……え?」
「お父様のことは聞きました。しかしお母様はどうなのですか?」
「さあ……よく知りません。僕を産んだのと同時に亡くなったそうですから」
「ん……もしかして私、訊いちゃいけないことを訊いてしまいましたか?」
困ったように眉根を寄せるサナに、僕は笑いかけた。
「僕でさえも普段は忘れていることですから。気にしないでください」
「それで――良いのですか?」
「母の顔なんて覚えていませんから。それに、母が生きていたからといって何かが変わっていたとも思えませんし」
「そうでしょうか……。もしかすると、イル君がお家を追い出されるようなことはなかったかもしれませんよ? お母様はイル君の味方をしてくださったかもしれません」
なるほど、その可能性については考えたこともなかった。
父や兄の性格その他から、母がどんな人間だったかを想像してみる。
あの父親と結婚しようと思うんだから、そこまで男の趣味がいいってわけじゃなさそうだ。
で、生まれた子供があの兄なのだから、性格が良かったというわけでもなさそう。
加えて僕の、エッヂア家にあるまじき剣の才能の無さ そんな人間を産んでしまった母なので……どうなんだろう。
「お嬢様の意見を否定するわけではありませんが、母が生きていたとしても僕はエッヂア家を追い出されていたような気がしますよ」
「そうですか。いえ、あまり気にしないでください。あくまで仮定の話なのです」
「まあ―――僕としてはどうして僕のような人間を産んでしまったのか、そこだけは訊いてみたいですね」
僕が言うと、サナは意外そうな顔をした。
「そんな分かり切ったことを知りたいのですか?」
「え? どういう意味です?」
サナは愉快そうに喉を鳴らす。
「イル君が生まれた意味なんて、決まっています。私と出会うためですよ」
「ん……ああ、そうでしたね」
僕はサナと目を合わせていられなくて、思わず視線を逸らした。
「あ、もしかして恥ずかしくなっちゃったのですか、イル君?」
からかうようにサナが言う。
目を逸らしたまま、僕は答えた。
「当たり前じゃないですか」
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