第2話 オークの襲撃
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隣町までは歩いて数時間もかからない。
買い物はすぐに終わった。
「にしてもゴブリンの耳なんて、何に使うんだろう?」
まだ屋敷にいくつか残っているはずなのに。
そんなことを考えながら、隣町から屋敷へ向かう細い道を歩いていた。
深い森を通っているこの道は人目につきにくく、夜だと盗賊に襲われる危険もあった。
今はまだ昼過ぎだし、そんな心配は―――。
いやな予感がして足を止めた。
その瞬間、森の陰から飛び出してきた巨獣が、僕めがけて片腕を振り下ろした。
「……!?」
人型の巨獣、オークだ。
丸太のように太い腕が地面にヒビを入れた。
オークの澱んだ両目が僕を見る。
明らかに狙われてますよね、これ……。
「オオオオオオ!」
オークが叫び、僕に襲い掛かる。
この森にこんなモンスターがいたなんて聞いてないし、多分今まで出現したことはない。
剣も使えない僕じゃ、絶対に殺される! ……そもそも今手元に剣はないし、使えたところで殺されることには変わりないだろうけど。
地面を転がりオークと距離を取る。
敵のリーチは僕の倍はある。
戦うより逃げる方が良いだろう。
しかしどうやって逃げ切れば―――。
一瞬僕は逃げ道を探した。
それが命取りだった。
急接近して来たオークに気付けなかった僕は、その腕で吹き飛ばされていた。
「ぐはっ!」
全身が痺れるような衝撃。
地面に叩きつけられ、目の前が真っ赤になった。
口の中に込み上げてきたものを吐き出すと、血だった。
「い……痛い!」
オークは僕に追撃をかけようと、再び接近してくる。
立とうとして腕を地面についた瞬間、再び激痛が走る。ダメだ、腕が折れたみたいだ。
剣の才能がなかったばかりに雑用係を押し付けられ、挙句こんな森の中で死ぬなんて――。
僕は無意識の内に、迫りくるオークめがけ左手を伸ばしていた。
「――【放水】」
魔法陣が発動し、勢いよく水が放出される。
水はオークの頭部に直撃し、オークは驚いたように足を止めた。
【放水】は元々洗いものをするために組んだ魔法だ。こんなときに役立つとは思わなかった。
僕は動きを止めたオークに接近し、左手を当てた。
「【粉砕】」
再び魔法が発動する。
本来は食材を粉々にするときに使う魔法――それが生物の体内めがけて発動されればどうなるか。
「グオオオオオ!」
オークは目や口から血を噴き出しながら地面に倒れこみ、しばらく痙攣していたがやがて動かなくなった。
な―――なんとかなった。
僕はその場にへたり込んだ。
心臓が今更高鳴りはじめ、全身から冷や汗が出た。
急いで帰らないと、少しでも遅れれば何を言われるか分からない。
オークの死骸をそのままに、僕は痛む身体を必死に動かし屋敷への帰路を急いだ。
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