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第19話 ロデリア

※※※


「単刀直入に申します。サナ様に我々平和外交派の象徴となっていただきたいのです」


 僕がいれたお茶に手をつける間もなく、ロデリアさんは言った。

 屋敷の客室は掃除の甲斐もあって、暖かな日差しが品の良い家具類を照らす雰囲気の良い空間になっていた。

 その客間に、テーブルを挟んでサナとロデリアさんは向かい合うようにソファに腰かけていた。


 サナはお茶を静かに一口すすると、ロデリアの顔を見つめた。


「せっかく足を運んでいただいたところ申し訳ありませんが、お断りします」

「しかし……このままでは戦火が拡大していく一方です。いまやナール王国は隣国のシュヴァルツマヴロ帝国のみならず、魔導国グラヌスまでも敵にしようとしているのです」

「それが御三家の――いえ、サウザントルル家を滅ぼした人間たちの望みなら仕方ないでしょう。この国を動かしているのは彼らです。私には何の力もありません」

「それは違います。我々平和外交派は、この状況を止めることができるのはサウザントルル家の血を引かれるサナ様だけだと考えております。我々はあなたのお父様、ミルド様のご遺志を――」


 がちゃん、と陶器が跳ねる音がした。

 見れば、サナの手元でティーカップがひび割れていた。


「お父様はあなたたちの身代わりとして殺されたのですよ。あなたたちが欲しいのは象徴などではありません。自分たちの代わりに死んでくれる生贄です」


 サナの声は聞いたこともないくらい低く、暗かった。

 僕の背中を冷たい汗が伝った。


「も……申し訳、ありません……」


 ロデリアは絞り出すように呟いた。

 その言葉が終わらないうちにサナは立ち上がり、言った。


「体調が優れませんので、私は退室させていただきます。ロデリア様、せめてごゆっくりされていってください。我が家の執事が淹れたお茶は美味しゅうございますよ」


 誰が見ても作り笑いと分かる笑顔を浮かべたサナは、そのまま客間を出て行ってしまった。

 残されたのは憔悴した表情を浮かべるロデリアと、僕。

 さて困った。どう声を掛けよう。


「ええと……お茶、飲んでみてください。街で買った一番いい茶葉を使っているんです」


 僕が言うと、ロデリアさんは僕を見上げた。


「……サナ様のお気に障るようなことを言ってしまい申し訳ありません、執事さん」

「あ、僕、イルっていいます」

「ではイルさん、よければ座ってください。そこで見られているとお茶が飲みづらいですから」

「あ……は、はい」


 僕はロデリアさんの向かい側に座った。

 ロデリアさんはカップを持ち上げ、口を付けた。



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