第18話 平和外交派
とりあえず残りの洗濯物を干し終わり、僕は伸びをした。
午前中の仕事はひと段落だ。
あとは……そうだな、さっきも考えていたけれど、庭の手入れでもしようかな。
「ああそうだ、イル君」
わざとらしいくらい平静な声でサナが言った。
「なんでしょう、お嬢様」
「イル君にも新しいお洋服が必要だと思うのです」
「服ですか? 結構気に入ってますよ、これ」
今僕が来ているのは、屋敷に残っていた執事用の服だった。
「でもサイズが全然合ってないのですよ。イル君の身体に合うものを買い直すべきです」
言われてみれば裾とか丈とかが余っているような気がする。
とはいえ。
「もったいないですよ。買っていただいてもどうせ汚してしまいますし」
「そういうわけにはいきません。私、ずっと気になっていたのです。今日は街へ行く馬車が来る日ですから、街でイル君の服を新調しましょう」
「でも……」
「デモもストライキもありません! イル君には、サウザントルル家につかえる執事としてふさわしい格好をしてもらわなければなりませんから」
そう言われると返す言葉がない。
僕は素直に返事をした。
「分かりました、お嬢様。そうします」
「では出かける準備をしなければなりませんね」
と、そのとき街道の方からこちらへ向かってくる馬車が見えた。
見慣れない馬車だな。僕らが街へ行くときに乗る馬車じゃない。
ということは、来客だろうか。
馬車は僕らの屋敷の前に停まり、中から外套を羽織った女性が降りてきた。
「……お嬢様、知り合いですか?」
「いえ、存じ上げない方です」
サナが首を傾げていると、女性は堂々とした歩調でこちらに歩いて来た。
「……サナ・サウザントルル様ですね」
黒髪の長髪で、すらりと背の高い女性だ。思ったよりも若い。整っているが。どことなく威圧感のある面持ちをしている。
「そうですが、どちら様でしょうか?」
「申し遅れました。私の名はロデリア・スタイン。王国議会の平和外交派の者です」
「平和外交派――決して大きな派閥ではありませんでしたね?」
サナの表情が少しだけ険しくなった。
確か、サナの両親は国外との友好的な外交を提唱し暗殺されたんだったよな。
だとしたら……少なくともこの人は、王国の主流派ではないってことになる。
「その通りです。サナ様、突然の訪問をお許しください。どうしてもお伝えしたいことがございます」
「………分かりました。屋敷におあがりください。客間でお話ししましょう」
サナが僕に目配せする。
「承知しました。ロデリア様、こちらへ。ご案内しましょう」
「失礼します」
僕はロデリアと名乗る女性を連れ、屋敷へと戻った。
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