第17話 布面積の少ない布
「いい天気だなあ」
僕は洗濯物を広げながら空を見上げた。
雲一つない青空だ。
爽やかな風が吹く中、タオルやシーツを物干し竿に干していく。
サナの屋敷に来てから一週間。
屋敷全体の掃除や洗濯が終わり、ようやく一日のサイクル―――朝起きて朝食を作り、洗濯をして、掃除をし、昼食を作り、買い出しに行き、そして洗濯物を取り込み夕食を作り、お風呂の用意をして後片付けをして、僕も眠りにつく―――そういう一連の流れがうまくいきはじめた頃だった。
さて、そろそろ畑仕事にも取り掛かるか。
庭に生えている草木は伸び放題になっているし、菜園の手入れもやっておかなければ。今から野菜を植えれば、夏には収穫できるかもしれない。
エッヂア家にいたときは仕事に追われる毎日で、こんな風に先のことなんて考える余裕もなかった。
極限まで効率化した【生活魔法】を使わなくても、サナ一人のお世話くらいゆとりを持って行える。
こうやって洗濯物を手作業で丁寧に干しているのも時間に余裕があるからだ。
もちろん、サナが着ている服を効率重視で洗濯しちゃって、そのせいで生地が傷んだりしてしまうのを防ぐ意味合いもある。
まあ、効率云々については【生活魔法】の改良も含め、さらに良い方法を考えていきたい。何せ考える時間はたっぷりあるのだから。
ふと僕は洗濯物を干す手を止めた――というか、自然と止まった。
そして僕が握っている布を注視する。
やわらかい生地で作られた逆三角形の布―――これは……っ!
思わず唾を呑んだ。
なんて生地の面積が少ない―――ッ!
お、お嬢様、こんな際どいものをお召しになっているのですか……っ⁉
「イル君、お洗濯は順調ですか?」
突然サナの声がして、僕は慌てて振り返った。
「じゅ、順調ですよお嬢様。前の屋敷では100人以上の洗濯物を一度に洗ったり干したりしていましたから。このくらいなんてことありません。はっはっは」
「100人も……⁉ そうなんですね、イル君、すごいんですね!」
サナが素直な尊敬のまなざしを僕に向ける。
「いえいえ昔の話ですよ。大したことじゃありませんから」
「そんなことないですよー、イル君はすごい人です。私、尊敬しちゃいます」
「で、ですかねー、困ったなあ、ははは」
あんまり褒められると照れる。
顔が熱くなって、僕は手の甲で額を拭った。
その瞬間、サナの表情が固まった。
「い……イル君、それは……」
見れば、僕の手にはしっかりとサナの白いショーツが握られたままだった。
「あっ、いやその、これはたまたま持っていただけで、お嬢様って意外と大胆な下着を履かれているなァ、なんてことは思ってないですから安心してください!」
って。
全部言ってるじゃん、僕。
イル・エッヂア一生の不覚。
目の前でサナの頬がみるみる紅潮していく。
「ち――ちがいます! それはっ、その、偶然それしか残っていなかったのですっ! いっつもそんな恥ずかしいのを履いているわけじゃないのです―――というか、下着くらい自分で干しますから! いつまでもそんな風に握りしめないでくださいっ!」
サナが勢いよく僕の手から下着を奪い、物干し竿の端の方に干す。
いや……うん。まあ。
よく考えたら僕、今まで女性の下着なんて何十枚も洗濯してきたわけだし。
別に今更どうこうってわけじゃない。
どうこうってわけじゃ――ない。
本当です。
信じてください。




