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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case 4 『駄女神転生』 プロローグ

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 『一万年と二千年くらいお待たせしてしまいましたでしょうか?』

「…………」


 見上げた青空は茫洋(ぼうよう)としていて、果てがなかった。

 高い空には輪郭(りんかく)がなく、ちっぽけなワタシには、この空の全体像など把握できるはずもない。

 ただ、この果てのない青空の先であろうとも、どこにもワタシの家族はいなかった。

 ワタシとワタシの家族は、世界そのものを(へだ)てられてしまったからだ。


「…………」


 贅沢(ぜいたく)を言える立場にはないんだけどね。

 ワタシは、一度目の命を失った。

 けれど、このソプラノと呼ばれる異世界へと転生を果たした。

 そして、二度目の命を与えられた。病弱だった体ではなく、健やかな体を与えられて。

 喉から手が出るほど欲しかった、病気にも負けない健気(けなげ)な体だ。

 その健やかな体にもこの異世界にも、ワタシは少しずつ馴染(なじ)んでいった。

 少しずつ少しずつ、根を張るように。

 けど、ワタシがこの世界に馴染めば馴染むほど…ワタシとワタシの家族のつながりが薄れていくような、気がした。

 元の世界に置いてきたはずのワタシの輪郭(りんかく)が、ぼやけていくような、気がした。

 …そんなこと、あるはずないんだけどね。


「まだかなまだかなー」


 商店街の端に設置されたベンチに座った繭ちゃんは、足をプラプラと揺らしながら謡うように呟いていた。


「もうそろそろ…のはずなんだけどね」


 ワタシは、時計塔で時間を確認した。約束の時間はもうすぐだ。


「花ちゃんも早く会いたいよねー?」

「そう…だねー?」


 テンションの高さから、繭ちゃんが本気で『あの人』に会いたがっていると理解できたが、ワタシとしてはまだ半信半疑だった。本当に、『あの人』がこの街に来るのか、と。しかも、その一報を聞いたのが二日前だ。心の準備だってできてないよ?

 そして、そのお出迎えにはワタシと繭ちゃんの美少女コンビ(誰がなんと言おうと)が駆り出された。


『あ、お久しぶりですねぇ』


 と、そこで声をかけられた。ワタシは、声のした方に振り向く。


「え…リリスちゃん?」


 ワタシに声をかけてきたのは、リリスちゃんだった。

 けれど、この子ではない。

 ワタシと繭ちゃんがお出迎えに来た相手は。


『何をしているのですか、先生』


 リリスちゃんは、ワタシのことを先生と呼ぶ。探偵という意味での先生だが、おそらくこの子はワタシのことなど毛ほども尊敬していない。発音だって、どちらかといえば『センセー』だからね。そんなリリスちゃんに、ワタシは事情を説明した。


「ちょっとね、人を迎えに来たんだよ」

『なるほど、先生にはお似合いの子供のお使いですね』

「…まあ、難しい仕事じゃないけどさ」


 本当にワタシに対する敬意とかないよね、この子…まあ、ワタシになついてくれてるのは分かるんだけどさあ。オヤツとか色々と分けてくれるしね…(せみ)の素揚げとかだけど。


「そういうリリスちゃんこそ、何をしてるの?」


 そういえば、プライベートがかなり謎なんだよね、この子。「普段は何をしてるの?」って聞いても『そういう質問を秘書を通してください』とかのたまうし…秘書なんかいないでしょ?

 けど、この質問にはリリスちゃんは普通に答えた。 


『私は日課の情報収集ですよぅ』

「情報収集…?」

『街中を歩き回って『謎』の収集をしていたんですよぅ』

「…ああ、そうかぁ」


 リリスちゃんは『探偵ごっこ』が趣味で、そのために『謎』を探し回っていた。ワタシも、何度も付き合わされている。そのほとんどが徒労に終わったけれど。

 なので、ワタシは何とはなしに聞いてみた。


「面白い『謎』は見つかった?」

『ええ…『幽霊』の噂話が聞けました』

「ゆう…れい?」


 え、本当に見つけてきたの…?

 というかワタシ、ホラーはガチNGなのですけれど?ちびっちゃいそうになるのですけれど?


『なんでも、『昼間に出歩く幽霊』だそうですよ。なので今度、一緒にその幽霊の謎を調べに行きましょうねぇ、花子先生』

「…いやです」

『先生に拒否権なんてあるわけないじゃないですかねぇ』

「リリスちゃん本当にワタシのことをこき使うよね!?」


 ワタシが先生なんだよね!?


『では、今日のところはこれでぇ』


 リリスちゃんは、そこでそそくさと立ち去って行った。

 そんなリリスちゃんの背中を見送りながら、ワタシは一つぼやいた。それくらいの権利はあるはずだ。


「リリスちゃん…ワタシのことなんだと思ってるんだろ」

「ボク…あの子、ちょっと怖いかも」


 珍しく、繭ちゃんがそんな言葉を口にした。この子が、ダレカのことを悪く言うことなんてないんだけど…いや、悪いとは言ってないのか。一応、ワタシはフォローをしておくことにした。


「まあ、リリスちゃんは普通の子…じゃないけど、悪い子ではないと、思うよ」


 最近ちょこちょこ一緒にいるけど、ダレカを傷つけたりはしない子なのだ…ワタシのことはこき使うけど。


「それよりほら、もうちょっとだよ」


 もう一度、時計塔で時間を確認した。

 約束の時間は、少しだけ過ぎていた。

 これからこの場所に来るのは、ワタシたち全員に深い関わりがあり、ワタシたち全員の恩人でもある『あの人(?)』だ。

 けれど、本当に来るのだろうか?この王都に、来られるのだろうか?

 そんなことをつらつらと考えていたワタシの背後から。


『お久しぶりですねぇ』


 声が、かけられた。

 セリフは同じだが、その声の主はリリスちゃんではない。

 そこにいた若い女性、金色の髪を棚引(たなび)かせていた。


「本当に…お久しぶりですね」


 ワタシも、そう返事をした。

 そこにいた、アルテナさまに。

 その場所に立って女神のように微笑んでいたのは、女神であるアルテナさまだ。

 そんな女神さまが、口を開いた。


『すみません、一万年と二千年くらいお待たせしてしまいましたでしょうか?』

「…あいさつ代わりにボケてくるのやめてもらえます?」


 出会い頭にボケてくる女神さまというのを、ワタシは他に知らない。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

色々と考えることもあり、少し時間がかかってしまいました><

できるだけ早く続きは書きたいとは思っておりますので、よろしくお願いいたしますm(__)m

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