エピローグ…?
「ワタシのこの手が真っ赤に燃えるぅ!勝利を掴めととどろき叫ぶぅ!」
「ここから先は一方通行でござるよ!」
「二度はダメだよ…ボクのような王さまに、二度も引かせたらダメだよ」
「ええと、ええと…えええええぇい!」
ワタシ、雪花さん、繭ちゃん、白ちゃんの四人は白熱していた。神経衰弱で。
あの『リアルかくれんぼ』のお疲れ会という名目でみんなが集まってパーティをしていた。一通りお腹を満たしたワタシたちは、そこで神経衰弱大会を始めた。これなら、難しいルールを覚える必要がなくて白ちゃんでも楽しめるからだ。
…ただ、白熱していた割りには、まさかの白ちゃん一人勝ちだったけれど。
いや、この子の記憶力すっごいんだよ?
「はいよ、エリンギのバター炒めできたぞ」
慎吾が、熱々のキノコ炒めを運んできてくれた。といっても、それはシャルカさんとナナさんたち呑兵衛二人の餌になっていたけれど。
この二人、お酒の趣味が合うらしく、差しつ差されつで楽しく吞んだくれていた。いや、楽しく呑むのはいいけどさ…呑み方がオッサンだったんだよね。そして、そんな二人のために、慎吾は料理を作らされ続けていた。まあ、慎吾本人は収穫したばかりの野菜を色々と試せて、それはそれで嬉しそうだった。ただ、あのほぼオッサンの二人からすれば味とかあんまり分かってなさそうだったけれど。
「…………」
けど、ワタシはそんな光景も嫌いではなかった。
雪花さんたちとバカなことを言い合いながら遊ぶことも、呑んだくれるシャルカさんたちを眺めることも、あんまりワタシの相手をしてくれないけど、一生懸命に料理をしている慎吾の姿を見ることも。何もかもが、みんなと一緒じゃなければ得られない、不可逆の時間だった。
「…文句を言うことも多いけどね」
それでも、手放したいとは思わない。思えない。
今、ワタシの空白を埋めてくれているのは、この時間だ。
だから、誰にも譲らない。ワタシにとって、世界の中心はここなんだ。
「…………!?」
不意に、世界が暗転した。
世界から色が消え、匂いが消え、音が消えた。
ワタシの世界が、消失した。終わりを、告げた。
ワタシがこっそりと大事にしていたセカイが、脈絡もなく奪われた?
…どういう、こと?
叫びたかったけれど、声も出なかった。
それでも、終わった世界が終わることはなく、終わり続けていく。
このまま、ワタシも終わるかと思われた矢先に。
『そろそろですよぅ』
…ワタシ以外の声?
不意に、聞こえてきたその声。
知っているようで、知らないようで。
その声は、終わる世界に溶けていた。
『先生…そろそろですよぅ』
え…?
センセイ?
センセイって…なんだっけ、ソレ?
「…………!?」
そこで、セカイは色を取り戻した。
雪花さんがいて、繭ちゃん白ちゃんがいて、シャルカさんとナナさんが吞んだくれていて、慎吾が料理を運んできた。
「どうしたんだよ、花子?」
ワタシは、慎吾の袖を掴んでいた。無意識だった。ただ、そこを掴まなければ、ワタシだけが、このセカイから切り離されてしまう気が、した。
「え、ああ、ええと…美味しそうだね、それ」
あれ…?
不意に、分からなくなった。
ワタシ、なんで慎吾の袖とか掴んでたんだっけ?
何が、あったんだっけ?
…まあ、いいか。
何かがあった気がしたけれど、何もなかったような気もする。
「花子なら絶対に喜ぶと思ってな、作ってみたよ。にんにく焼きそば」
「うわぁ、にんにく焼きそば!花子、にんにく焼きそば大好きぃ!」
「知ってるよ」
慎吾は、笑いながらワタシに焼きそばのお皿を手渡した。
ワタシは、『いただきます』の後ですぐに食べ始める。
芳醇なにんにくの香りが、口の中いっぱいに広がった。
「うん、サイコーだよ、慎吾」
「泣くほど美味いか?」
「…え?」
ワタシの頬を、いつの間かに、涙が伝っていた。
あれ…?なんで?なんでだろ?
「そうだね、美味しいよ、慎吾の焼きぞば」
よく分からないから、よく分からないままにして焼きそばを味わうことにした。
「…………」
慎吾の料理は、今日も美味しい。
それに、みんなもいる。だから、楽しい。
これからも、こんな日が続く。
そんな予感は、あった。
だから、続く、はずなんだよね? 了?
今回で、このエピソードは終了となります。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
色々と所用などもあって予定通りにはいきませんが、できるだけ早く次のエピソードに取り掛かりたいとは思っております。
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それでは、次回もよろしくお願いいたしますm(__)m




