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転生者なんか送ってくるな! ~看板娘(自称)の異世界事件簿~  作者: 榊 謳歌
Case3 『リアルかくれんぼ』

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23 『神よ、ワタシを祝福しろ!』

「さて、この『ゲーム』は三ターンで終わりだから、次が最後のターンだね」


 目の前の『勇者』さんは、そう口にした。

 現在、二人の得点は、『勇者』さんが五点を獲得していて、ワタシの得点は一点しかない。


「…………」


 二ターン目の『海賊』時、ワタシは『山』に『財宝』を隠した。そのまま隠し通せれば二点を獲得できたのだが、カールさんに『財宝』の場所を『山』だと特定され、自分の持ち点から二点を奪われた。

 その時点で、ワタシと彼女の得点は一対三となった。

 この時、彼女は言った。「だって、俺はもう、君の選ぶカードが分かるから」と。


「…………」


 そして、、その二ターン目の裏は、彼女が『海賊』だった。ここでワタシが彼女の『財宝』の隠し場所を特定できていれば彼女から得点を奪い返せたのだが、それはできなかった。

 カールさんは『山』に『財宝』を隠し、そのまま二点を獲得した。

 これで、得点はワタシが一点、彼女が五点となった。正直、この点数の差は絶望的だった。

 そして、先ほど『勇者』さんが言ったように、次が最終の三ターン目だ。


「次は、俺が『海賊』をやる番だね」


 このゲームはターンごとに先攻が『海賊』をやり、後攻が『兵士』をやる。この最終ターンでは、彼女が先攻なので先に『海賊』をやることになっていた。


「とはいっても、このゲームはもう『終わって』るけどね」


 ワタシとしては聞き捨てのならない言葉を、カールさんは口にした。なので、ワタシは抗議の声を上げる。


「まだ終わってないじゃないですか」

「いや、終わってるよ」 

 

 カールさんの瞳には、揺るぎのない意志が灯っていた。

 

「さっきも言ったけど、俺は花子ちゃんがどこに『財宝』を隠すのか、それが分かる」

「…それ、本当なんですか?」


 まさか、『勇者』とかいう肩書以外に、『メンタリスト』でもあるとか言い出さないよね?


「俺には、魔力の流れが見えるんだよ」

「…魔力?」


 それは、『メンタリスト』以上に胡散臭(うさんくさ)い台詞だった。

 …いや、ここは異世界だ。スキルや魔法なんて、これまでに何度も見てきた。


「魔力の流れが見えているから、さっき花子ちゃんが『山』が選んだことも俺には分かっていた」

「本当…なんですか?」


 カールさんの瞳は語っていた。その言葉がブラフはない、と。

 そして、カールさんはその口でも語り始める。


「一ターン目の先攻も俺だったけど、その時、『海賊』の俺は『財宝』を『海』に隠した」

「…そうでしたね」

「このゲームでは、『海』に『財宝』を隠しても一点しか獲得できない。けど、俺がそこで見たかったのは、『花子ちゃんの魔力が、一点の時にどれほど揺れるか』だったんだ」

「ワタシの魔力が…揺れる?」


 耳慣れない言葉に、ワタシは揺れる声で呟く。


「この世界の人間は、大なり小なりの魔力を持って生まれてくる。俺にはその魔力が見えるんだけど、人間ってのは、感情の起伏に応じて魔力も揺れるんだ」

「…まさか、その魔力を感知して」

「お、察しがいいね。その通りだよ。俺は、その魔力の揺れから花子ちゃんの感情と手を読んだんだ」


 事も無げに、『勇者』は語る。ワタシは、沈黙を余儀なくされる。

 

「俺が一点の『海』を選んだ時点で、花子ちゃんの一点に対する魔力の揺らぎを見ることができた。そのターンの裏では、花子ちゃんが『街』を選んで三点を獲得した。つまりは」


 彼女は、そこで軽く拳を握った。世界すら、掌握したように感じられた。

 ほんの少しでも抗うために、ワタシは言った。その語尾は小さく震えていたけれど。


「ワタシの魔力の揺れ…その下限と上限を見極めた、ということですか」

「本当に察しがいいね。その通りだよ。だから、俺には見えていたんだ。花子ちゃんが『山』に『財宝』を隠したことが」

「…………」


 その言葉が本当か嘘か、この場で判断できることではなかった。

 それでも、結果は語る。うるさいほど、雄弁(ゆうべん)に。

 彼女は五点。ワタシは一点だ。


「そして、この四点差がついた時点で、このゲームは俺の勝ちだよ」

「…どういう意味ですか」


 その意味を、かすかではあるが、ワタシは理解していた。

 それでも、そう言うしか、なかったんだ。


「こういう…意味だよ」


 目の前の『勇者』は手元にあった三枚のカードを全て表にした。

 そして、『海』のカードの上に赤い三角錐…『財宝』を無防備に置く。


「さあ、準備ができた。答えていいよ」

「…丸見えですけれど」


 彼女は、『海』のカードの上に『財宝』を置いている。隠していないのに、『答えていい』と口にした。彼女は、何の小細工もしていない。屋外にいるはずなのに、(よど)むように空気が重くなる。その重い空気の中、悠々と『勇者』は語った。


「言ったはずだよ。四点差がついた時点でこのゲームは終わりだ、と」

「だからって…これじゃあ」


 言いかけたワタシは、そこで気付いた。

 この『勇者』さんが『財宝』を『隠し』たのは『海』だ。

 当然、ワタシはその場所を特定するしかない。


「…けど」

 

 それで、どうなる?

 彼女が『海賊』で、ワタシは『兵士』だ。

 彼女が『財宝』の隠し場所を特定されれば、その場所に応じた得点をワタシに奪られることになる。

 しかし、彼女が隠したのは『海』だ。その場所は、一点しか獲得ができない。

 裏を返せば、ワタシに特定をされたとしても、彼女は一点しか、奪われない。


「…………」


 その結果、ワタシが二点で、彼女は四点になる。

 その差は、二点になる。

 そして、『海賊』と『兵士』の役割り(ロール)が入れ替わり、ワタシが『海賊』となる。

 けれど、その点差は、二点。

 つまり、そこで逆転をするためには。


「気付いたようだね。花子ちゃんが俺に逆転勝ちをするには…その二点差を引っくり返すためには、三点が必要になる」

「ですが…そのためには」

「そう、花子ちゃんは『街』を選ぶしかない」


 このゲームでは、『財宝』を隠した場所により、入る得点が異なる。『海』なら一点。『山』なら二点。『街』なら三点。

 当然、ワタシが三点を得るためには『街』を選ばなければならない。


「それとも、延長戦を狙って二点の『山』に『財宝』を隠すかい?だとしても、魔力の流れが見える俺には筒抜けだけどね」

「…そう、ですね」


 …これは、無理だ。

 点差が開いているのに、さらにはこちらの手も、文字通りこの人には読まれている。

 この状況を打開できる妙手どころか、悪足掻きすら、浮かばなかった。

 そんな八方塞がりのワタシに、『勇者』さんは問いかける。


「さて、俺は『海』に隠したけど、どうする?」

「…ワタシは、『海』を選択しますよ」

「はい、じゃあこれで花子ちゃんは俺の隠し場所を特定したわけだから、俺から一点を奪ったことになるね」


 隠し場所を(正確には隠してすらいないが)特定されても、何食わぬ顔でカールさんは言った。


「それじゃあ、最終局面だ。俺は後ろを向いてるから、隠し終えたら教えてよ」


 そして、あくまでも自然体で、『勇者』さんは後ろを向いた。なで肩だったはずなのに、その背中がやけに大きく見えた。


「…………」


 言葉もなく、ワタシは三枚のカードを眺めていた。

 ワタシが勝ち切るためには三点が必要で、だからこそ、ワタシの選択肢は見え見えになってしまう。

 そうでなくとも、この人はワタシの魔力の揺れとやらを感知して、ワタシの隠し場所を特定してしまうのだ。


「…窮鼠(きゅうそ)どころの騒ぎじゃないよね」


 このゲームで負ければ、そこでリタイアとなる。せっかく、慎吾が生き残らせてくれたのに。繭ちゃんだって、犠牲になってくれたのに。


「終わるのは、仕方ない…けど、諦めたままでは、終わりたくない」


 小声で呟き、空を見上げた。

 ワタシの悩みなんて知ったこっちゃない大空は、青い色で悠々と広がっていた。


「ヒントなんて…空を見ても見つからないよね」


 空を見上げていても、それはお手上げと変わらない。

 なので、ワタシは手元に視線を落とす。

 三枚のカード。一つの箱。そして、二つの三角錐。


「ああ…そうか」


 このゲームにおいて、『海賊』が隠す『財宝』は一つではなかった。『財宝』には、『赤い財宝』と『青い財宝』があった。

 けれど、このゲームでこれまで使用されてきたのは『赤い財宝』だけだ。


「…青色の『財宝』なんてとてもじゃないけど使えないしね」


 これを使うのは、リスクが高すぎるからだ。


「いや…待てよ」


 本来なら、『海賊』が『兵士』に隠し場所を特定された場合はその得点を兵士に奪われることになる。けど、この『青い財宝』を隠して特定された場合は、『海賊』の方が逆に『兵士』の得点を奪うことができる。


 …なら、これを使えば。


「…駄目だ」


 聞こえない声で、また呟いた。

 相手は、魔力の揺れからワタシの手を読んでくる。

 仮に、ここで『青い財宝』を隠したとしても、ワタシの魔力からそのことを嗅ぎ取ってくる可能性が高い。

 そして、『青い財宝』は『兵士』に特定されなかった場合、マイナス千点という埒外(らちがい)のペナルティが発生する。

 

「これも…ダメか」


 ワタシの落とした視線の先に、右手と左手があった。

 二つ。お手々が二つ。『財宝』も二つ。


「このままなら負けは確定だけど…でも、土産話くらいは、持って帰りたいよね」


 慎吾にも、繭ちゃんにも、雪花さんにも、最後まで喰らいついたよ、相手は『勇者』だったよ、と胸を張りたい。


「二つ…か」


 そこで、一つの悪知恵が働いた。

 そして、手早く『財宝』を隠す。


 ちょっとした一工夫を、加えた後で。


 隠し場所は、勿論、最高得点が狙える『街』だ。


「お待たせしました…もういいですよ」


 ワタシは口元に小さな笑みを浮かべる。

 小さな冷汗がこめかみを滴ったけれど、涼しい顔をして。


「さて、追い詰められた花子ちゃんは、神さまにでもお願いしたのかな」


 軽口をたたきながら、振り返った『勇者』さんの表情が強張る。

 ワタシの表情を…いや、『魔力』を感知したからだ。


「花子ちゃん…君は、何をしたんだ?」

「ちょっとお願いをしただけですよ…『神よ、ワタシを祝福しろ!ってね』」


あ、アルテナさま以外の神さまでお願いします!

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

そろそろこのエピソードも締めの段階に入ってまいりました。

それはそれとして、今日のWBCも熱いですね。

ヌートバー選手が来てくれて、日本がどれだけ助けられていることか!

それでは、次回もよろしくお願いいたしますm(__)m

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