21 『勝手に戦え!』
「これが、その『課題』ですか?」
ワタシと彼女(?)は、対戦型だという『課題』を挟んで対峙した。
「ああ、勝った方だけが『お宝』を獲得できる」
ワタシの目の前で『勇者』さんは笑う。その笑みは不敵で、それだけで、彼女が修羅場を何度も超えてきた人だと理解できた。その笑顔のまま、勇者さんは言った。
「じゃあ、時間も限られていることだし、さっそくやるかい?」
「…そうですね」
とは言ったけれど、このまま勝負を始めても勝てる気はしなかった。
「そういえば…ワタシ、あなたの名前も知らないのですけれど」
この元男の現女『勇者』さんと話をする時は、いつもばたばたとしていた。最初に会った時はこの『リアルかくれんぼ』が始まる直前だったし、その次は、この人に鬼をけしかけられた。
「そういえばそうだったね。俺の名はカールだ。よろしくな」
カールさんは、そこで快活に笑った。呪いとやらで性別が女性になったそうだが、この笑みがあるなら男でも女でもモテたんだろうな。そんなカールさんに、ワタシも名乗る。
「ワタシは、花子ですよ…田島花子です」
「そうか、いい名前だな」
「誰にでもそう言ってるんじゃないですか?」
「ああ、名前ってのは親から最初にもらうプレゼントじゃないか。だったら、それはステキなもののはずだろ?」
カールさんは、またも笑う。少し話しただけだが、少しだけこの人のことが分かった。この人の主軸は、おそらくブレない。それが、この人の強さの土台になっている。
どんな『課題』かはわからないけど、この人の軸を崩さなければ、ワタシのようなただの看板娘には勝機はないはずだ。確信めいたそんな予感を、ひしひしと感じていた。
「さて、どんな『課題』なんだろうな」
カールさんは、本当に楽しそうにしていた。そして、テーブルにかけられていた布を捲る。『課題(対戦型)』と書かれた看板は立っていたが、この場にあったテーブルには布が被せられていてその内容が分からなかった。
「…おや?」
そこで、初めて『勇者』さんの眉が動いた。けど、それ以上にワタシの眉が動いていた。
いや、困惑するよ、こんなの。
『勝手に戦え!財宝争奪ゲーム!』
テーブルには、でかでかとセンスを疑う文字が羅列されていた。
誰だよ、この『課題』を作ったの。戦わせるなら責任くらい持ってよ。
「ええと…なになに?」
勇者さん…カールさんがテーブルに置かれていた紙に目を通す。ワタシも、彼女(?)と同じようにその紙を覗き込む。どうやら、そこに記されていたのは、この対戦型『課題』のルールだった。
「この三枚のカードと、小さな箱…それから、この二つの三角錐を使うようだな」
言いながら、カールさんはテーブルの端に置かれていたその三つ…三枚のカードと小さな箱、そして、二つの三角錐を手に取った。
「…これを使って勝負をするということですか」
テーブルの反対側には、同様のその三つが置かれていたので、ワタシはそれらを手に取った。
そして、テーブルに置かれた紙にはこうルールが記されていた。
『財宝探しゲーム』
『ルール1 海賊と兵士に分かれる。海賊は三枚のカード、『海』『山』『街』を裏返し、その一つに財宝(三角錐)のどちらか一つを隠す(箱に入れ、カードの上に置く)』
『ルール2 海賊が『海』『山』『街』のどこに財宝を隠したのか、兵士は当てる。兵士が当てられなければ、財宝は海賊のものとなる(海賊は得点を獲得)。逆に、兵士が財宝の在り処を突き止めれば、海賊は財宝を奪われる(兵士に得点を奪われる)』
『ルール3 財宝をどこに隠すかで、海賊が獲得できる得点が異なる。『海』なら1点『山』なら2点、『街』なら3点(海賊が兵士に得点を奪われる場合も、その得点となる)』
『ルール4 1ターンで交互に海賊と兵士を行う。これを3ターン繰り返し、最終的に獲得した得点の高い方が勝者となり、『お宝』を獲得できる」
『ルール5 敗者はこのゲームそのものから脱落することになる』
「…負けた方はリタイアなんですか!?」
最後のルールを確認したワタシは、思わず声を出してしまった。
「どうやらそのようだ。まあ、俺は負けないけど」
「…自信満々ですね」
これ、要はゲームだよ?
しかも、体を使ったゲームじゃない。さらに言うなら、運の要素がかなり高い。これなら、どっちが勝ってもおかしくないはずだ。
…にもかかわらず、この人は余裕の態度を崩さない。
「おや、まだ追加のルールがあったようだ」
勇者さんが言ったように、最後に一つ、ルールが付け加えられていた。
『ルール6 赤い財宝を隠せば、得点は上記の通りとなる。ただし、青い財宝は得点が反転する。『海賊』が青い財宝を隠し、それを『兵士』に発見された場合、『海賊側』が『兵士側』の得点を奪うことができる』
「このゲームって、基本的に『海賊側』じゃないと得点は奪われないルールみたいですけど…この青い財宝を使った時だけ、『海賊側が兵士側から得点を奪える』んですね」
ワタシは、言いながらルールを脳内で反芻していた。
少しややこしいが、理解できないほどではない。
要は、『兵士』に青い財宝の場所を当てられれば、『海賊』は『兵士』から逆に得点を奪えるということだ。
「ルール6はまだ続きがあるみたいだけど」
勇者さんが言ったように、ルール6はそれで終わりではなかった。
『ただし、青い財宝を使って『兵士』に当てられなかった場合、『海賊』は1000ポイントを『兵士』に奪われる』
「バラエティーの最後に出るクイズかよ!?」
なんで1000点も奪われないといけないんだ!?
怖くて使えないよ、この青い財宝!
…いや、このルール6は完全に後付けだ。
ほぼおふざけで追加されたな。
「よし、大体は把握したよ。さっそくだけど、始めようか」
ワタシがツッコミを入れている間に、カールさんは心の準備も終えたようだ。
猛禽のような視線で、カールさんはワタシを見据えていた。
…軽くちびりそうなくらい怖いんですけど。
「花子ちゃんは先に『海賊』がやりたいかい?」
「…ワタシ、『兵士』がいいです」
「そうか、俺は最初は『海賊』がいいんだけど…とりあえずじゃんけんしようか」
「…なぜですか?」
先攻め後攻めに関しては特に規定はなかったはずだ。
けど、勇者さんはじゃんけんを求めてきた。
「…しょうがないですね」
この異世界ソプラノにもじゃんけんは伝わっていた。おそらく、ワタシたちよりも前に来た日本人の転生者が教えたんだろう。
そして、ワタシが『兵士』に、カールさんが『海賊』になった。
「さあ、ゲームを始めよう」
カールさんは、さらに不敵に微笑む。
こうして、『勇者』VS『看板娘』の火蓋が切って落とされた。
…自分で言うことじゃないけど、こんなお祭りの時じゃないと絶対に実現しないカードだな。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
少し感覚が開いてしまい、すみませんでした。
『謎解き令嬢VS謎を解かせたくない執事』などという新しい話を書いておりました。
そちらも読んでいただけますと、とても嬉しいです。
それでは、次回もよろしくお願いいたしますm(__)m
…大谷は、なぜあの体勢でホームランが打てるのでしょうね。




